ここでひとつ注意すべきは、たとえ可憐で哀れな女の子の幽霊がな登場するような物語であっても、それが怪談として書かれ(語られ)るかぎり、そこには常に一抹の不気味さや不穏な気配が漂うものだということです。どんなに無害で愛らしくとも、幽明界を異にする存在である以上、この世ならぬものとの
接触には、ある種の緊迫感……異界を受け入れてしまうことで、昨日までの安穏な現実が一挙に崩壊しかねない危険性が孕まれて当然だからです。その微妙な一線に無自覚であったり、あえてそこを踏み越えてしまった作品は、もはや怪談ではなく、ファンタ
ジーやメルヘン、寓話、SFなどの隣接ジャンルに逸脱してしまうように思えます。
な、なるほど。もしかしたら「怪談」は拒絶の物語なのかもしれませんね。
明らかな異界の存在に対して、完全に受け入れてしまえばファンタ
ジーとなるし、論理的に解明しようとすればSFになるし、どちらにしろ決定されてしまう。
ホラー・ジャパネスク読本
東雅夫/編
双葉社 双葉文庫月の子 石月正広