読了本ストッカー:柴田元幸おそるべし!!……『読んで、訳して、語り合う。 都甲幸治対談集』都甲幸治/立東社



2017/10/25読了。

「翻訳」+「文学」といったらどうしても柴田元幸氏の名前が思い浮かびますし、都甲幸治氏の著作は初挑戦。
カバーの対談相手のラインナップを見て、読んでみました。

◆「いしいしんじ/越境する作家たち」
……あとがきにYouTubeで完全版が公開されていると書いてあったので初出をみると、ジュンク堂池袋店での対談だったんですね。
動画がむちゃくちゃおもしろいんでオススメです。これを見ておくと、本書には載っていないエピソードで、これからの都甲氏の主張がとてもわかりやすくなります。


◆「岸本佐知子/翻訳家ができるまで」

◆「堀江敏幸/文芸で越境する」……
堀江「世界文学を読むというのは、人を信用するということですよ。自分が読めない言語を訳してくれた翻訳者を信用して、出会いをくれた恩人として記憶に残すべきなんです。翻訳というのは、翻訳者がそのときに使いこなせる日本語を用いて、今の自分にはこれが精一杯だという言語体験を差し出したものなんですよね。読者はそれを追体験している。日本にいて、いろんな国の言葉で書かれた作品を日本語で読んでいる以上、享受しているのは、ある意味で、偽の海外文学なんです。原文とは違うものですからね。でも、それを僕らは深く愛しているわけです。(中略)その偽物といわれているもののなかから、原点に通じる本質みたいなものが、ちょっとでも伝わればいいと思うんです」

◆「内田樹沼野充義村上春樹の“決断”」
……毎年話題となる村上春樹ですが、私はまったくよい読者ではないので、その狂騒をポカーンと眺めているだけ……。
道家内田樹氏、「元祖世界文学」ロシア文学者の沼野充義氏と村上春樹について語ります。
本書で一番衝撃的だったのはこの部分。
都甲「子どもと対立はせず、むしろ若者の気持ちがよくわかる物分かりのいい父親で、自分は上の世代の威張った父親とはまったく違うと主観的には考えている。そのことで逆について子どもに繁閑も共感の余地も与えない、すさまじく抑圧的な父親になり得るわけです」
(中略)
内田「シンプルな人だったらいいんですよ。ただ威張っているバカな親父だったら乗り越えるのは簡単なんだけど、自分自身が暴君化することを恐れて、おのれの抑圧性を抑圧しているような父親って、子どもからしたら地獄ですよ。たぶん村上さんはそういうことが直感的にわかっていて、自分が親になったら自分の子どもは救いがないという恐怖がどこかにあったんじゃないかな。家父長というのは暴力的であれば暴力的であるなりに、寛容であれば寛容であるなりに子どもを傷つける」
話は「男性の武装解除」という方向に進んでいき、意外と(?)村上春樹は保守的であるというような話になっていくのですが。
自分の周りを見ても、今はとても物分かりのよいお父さんたちが盛りだくさんです。でもどこかで男性中心主義的価値観を持ち続けている。
私自身、妻は主婦ですし、籍も私のほうに入っている。
そのことに対して特に話し合ったわけではありません。だからなんとなく、フェミニスト面をしたままここまでやってきました。
今は子どもたちが小さいからいいけれど、今後自分が抑圧的な父親になるんではないか、その恐怖でいっぱいです。

◆「芳川泰久/『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』をめぐって」

◆「柴田元幸アメリカ文学の境界線」
……都甲氏の『21世紀の世界文学30冊を読む』について、柴田氏が「この本はアメリカを周縁の視点から見るという姿勢が強いですよね。それはどの程度、現在のアメリカ文学に起因して、どの程度、都甲幸治に起因するのかも気になるところです」という質問が凄まじい切れ味!

都甲氏は、ポストモダンの「白人インテリ 対 苦労したエスニック」という旧来の図式ではなく、エスニック・マイノリティの作家たちが最も創造的で、今のアメリカ文学のメインであると言います。
アメリカはなんでもありだから、「周縁」に面白い文学があるのではなく、その周縁こそが中心だと。しかし柴田氏は結構詰めていって(笑)、
柴田「この本で取り上げているアメリカは、もはや中心ではなく周縁的なものだよね、という僕の質問に、都甲さんは、こっちが中心だと思っていると答えたわけだけど、それは一種正しい詭弁であって、中心と呼ぶにしてはかなりバラバラだよね」
都甲「そうですね(笑)」
と粉砕します。柴田氏恐るべし。

柴田「要するに、中心がない世界で、誰もがなにかとのズレを感じながら生きている世界とでもいうか」

都甲氏が留学によって粉砕された何かが、マイノリティに引き寄せられているのかな、と思うとても面白い対談でした。

◆「藤井光/マイノリティ、メタフィクション、現代小説のリアル」

◆「星野智幸/世界とマイノリティ」

◆「小野正嗣/わたしたちが大学生だったころ」