読了本ストッカー:隠密版暴れん坊将軍?……『御庭番十七家』南原幹雄/角川文庫


天皇家の忍び』より、時代はぐっと下って江戸幕府八代将軍吉宗の治世。
吉宗の将軍即位に伴って創設された御庭番。彼らの活躍を描く連作短編集です。
しかし初期の十七家はすべて人名も判明していますし、登場人物と重なりがないため、オリジナルキャラ(?)かな?

◆「真昼の暗殺者」……吉宗の突然の将軍即位にたまたま同行していなかったため、幕臣に召し上げられなかった落合庄九郎。国元の武芸目付十七人のうちたった一人取り残され、不遇をかこつ庄九郎は、吉宗の跡を継いで紀州藩六代藩主となった宗直に反旗を翻そうとする重臣山室兵部に、同志になるように誘われますが……。吉宗の懐刀、加納久通がその知謀の深さを垣間見せてかっこいいです(登場しないんだけど!)

◆「将軍の遺言状」……前将軍家継の御側御用人として絶大な権勢を誇った間部詮房。吉宗によって罷免された詮房ですが、吉宗に不利になる家宣の遺言書を所持しているらしいことが判明。加納久通に命じられた御庭番、伴野平次郎は、間部詮房の屋敷に中間として潜入しますが……。

◆「浜御殿かくし畑」……今度の敵は薩摩藩。幕府の財政建て直しのため、薩摩藩の専売特許である甘蔗(サトウキビ)の栽培を思いついた吉宗は、奄美大島より栽培人と苗を御庭番若山長兵衛護衛の元、呼び寄せます。彼らは浜御殿に甘蔗畑を作るのですが、そこに薩摩藩の襲撃が!

◆「伊賀の末流」……今度の敵は、尾張藩+伊賀者! 敵ばっかりだなあ……。
紀州藩藩主の相次ぐ頓死、また将軍家の薨去に不審を抱く尾張家と、御庭番に敵意を燃やす伊賀者。双方の利害が結びつき、暗闘が始まります。御庭番側の主人公は畑野庄八です。

◆「蔵前の用心棒」……今度の敵は商人です。御家人や旗本たちの首根っこを押さえている蔵前の札差たちは、幕府に介入されるまえに、自ら株仲間の結成を願い出、利益の寡占を図りますが……。御庭番である兼松辰三郎、村島新八らが活躍します。

◆「お七里武者」……吉宗の跡を巡った争いに負け、紀州藩藩主の座を失ったとなった徳大寺実次。紀州藩から危険人物として監視され、妊娠中の妻も謀殺された実次は、伊賀と尾張に協力し、紀州からの脱藩を謀ります。
七里飛脚として勤めていた経歴をもつ御庭番、丹波音次郎は、馬で疾走する実次主従を足で追います!
徳大寺実次は架空の人物でしょうか?第4代 徳川頼職の息子と設定されていますが、頼職に息子はいなそうだしなあ……。

◆「菩提寺戦争」……徳川将軍家菩提寺といえば、上野寛永寺と芝増上寺。吉宗の生母、お由利の方、ひいては吉宗その人の葬儀を巡って、両菩提寺による争奪戦が繰り広げられます。
質実なため優勢な寛永寺に対して、大奥を取り込み挽回を図ろうとする増上寺。御庭番平田清之助は増上寺の不正を暴くべく、暗闘を開始します。

◆「抜け荷百万石」……タイトル見ただけで想像がつくように、加賀前田百万石の抜け荷を御庭番が探る物語です。海産物を中国に売り渡し、莫大な利益を得ている様子の加賀前田藩。御庭番武市五郎太は、その手先を務めているらしい越後屋勘兵衛の船越後丸に乗り込み、津軽松前まで北上していきます……。

◆「隠密海峡」……海峡といえば、ご存知鳴門海峡。御庭番後藤真之丞は、鋳物師となり、阿波に潜入します。阿波藩は鋳物師を大量に集め、一体何をしているのか?

◆「後門の狼」……吉宗にとって、尾張藩が前門の虎だとしたら、後門の狼は水戸藩です……黄門だけに……。
さてと、それにしても吉宗四面楚歌ですね!
御庭番鳥飼万三は猟師として水戸藩に潜入、水戸藩が財政を大きく傾けてまで、何をしようとしているのか探索します。水戸城に潜入するのに五日かけたり、脱出にも二日かけたり。

◆「血闘木挽橋」……薩摩で、仙台で、そして吹上庭内で、御庭番が身分を暴かれた上で惨殺される事件が続きます。
これまでの短編に登場してきた御庭番たちが集い、この事件に総力戦を挑みます。ジャンプみたい……燃える展開です!

◆「将軍暗殺命令」……これまで(この短編の年代だとすでに十数年経っている模様ですが)、専守防衛に努めてきた御庭番ですが、加納久通、ついに反撃に打って出ます。御三家筆頭尾張藩徳川継友暗殺計画です!