読了本ストッカー:当然ながら、子どもたちはまた、ぼくの掌から出ていってしまいました……『子どもにもらった愉快な時間』杉山亮/晶文社



2016/10/06読了。

うちの子どもにも人気の『名探偵ミルキー杉山』シリーズ。
その著者杉山亮氏のエッセイ集です。

2012年に増補版が出ているようですが、図書館で借りたので、1989年の初版でした。

てっきり生粋の児童書作家だと思い込んでいたのですが、本来は保父さんなのですね!
『ミルキー杉山』なんてのはずーっと後年のものらしく、なんとなく児童書に関する本かなーと思ってたんですが、そんなことはまったく出てきません。


1976年に東京都の公立保育園の男性保育士第一号として、伊豆諸島の保育園に赴任した著者の、保育の日々を描いたエッセイでした。


しかし、保育士の仕事っていうのは、一にも二にも「準備」なんだなーと痛感!


宇都宮の幼稚園では、ある子どもたちが手紙ごっこをはじめ、流行り始めたのを見て、「よし!郵便局ごっこをしよう!」と決意。すぐにやりたい子どもたちをなだめ、「今日は郵便局やポストを作ろう」といってみんなで準備をします。机に住所を決めたりしているうちに、杉山氏は、はたと気づきます。
「やりたがってない子どもたちはどうしたらよいか?」
人気者の子どもたちには、おそらくたくさんの手紙が集中する。すると出すばかりで、もらえない子どもたちもでてくる。

「好きなもの同士で○○しなさい」というのに、恐怖を感じたことのある人なら、きっとわかりますよね? この感覚!

「もっと面白いことしてるから」という感じで、ほかの遊びをすることで、その感覚から逃れていた子どもたちも、クラス全体でやるとなると、それもできなくなる。
杉山氏は、郵便局ごっこを拡大し、小包、貯金、電報といろんな仕事を設けることで、突破します(詳しくは本書で)。


また過度に自然児を評価しない姿勢も好感がもてます。
伊豆諸島の保育園から宇都宮の幼稚園へ職場を変えた杉山氏。

四月になって初めて会った、ゆり組の二十人の子どもたちは、ほとんどの子が三、四歳の時に入園しての持ちあがりで、なるほど外遊びや散歩に慣れていませんでした。
雨上がりの園庭にできた大きな水たまりに入りたがる子は一人もいません。湿った土をすくってぼくが泥団子をつくりだしても、それを欲しがるばかりで、自分も作ろうという子もやはりいません。ぼくがつかまえたトカゲを、持ってみることもしません。
といっても、(そういうことをしたがる子に育てたい)とは、僕はもう思っていませんでした。「大人が頭に描いた理想のこども像と違うから問題がある」と一方的に決めつけることに、なんの意味もありません。水たまりやトカゲが絶対的におもしろいわけもないし、水たまりには「入れない」のではなく、「入らない」のかもしれません。必要を感じれば入ることだってあるでしょう。


と書きます。そうは言っても、

ただ、そうはわかっていても、やはりこの(子どもたちの)迫力のなさはなんだろうと思わずにはいられませんでした。

と率直に書きます。
幼児教育に対して、とてもバランス感覚にあふれた方なんだろうなぁと思いました。
1989年ですからね。子どもが外で遊ばなくなった!→自然万歳! という感覚全盛の時代だと思ったのですが、こんな先生に教わってみたいですねぇ。