読了本ストッカー『不知火殺法』

不知火殺法 (集英社文庫)
著者:新宮 正春
販売元:集英社
(1987-12)


2010/2/9読了。



◆「不知火殺法」……有明海の干潟で、麻糸で碇型の鉤を取り付けた竹竿を使ってムツゴロウを釣る<げんざ>。ある日、喉を掻ききられた水死体を見つけます。その傷口を見たげんざは、二十年隠し続けた秘密を思って恐怖するのですが……。二天道楽と呼ばれる老武者がチラと登場するのですが……それが伝奇(笑)。

◆「少林寺殺法」……名古屋城下で尾張藩徳川義直の客分として、無為(?)な日々を過ごす明人、陳元贇。日本に拳法を伝えたとしても有名な人物ですね(嘘らしいですけど)。
ちょうどその頃、大陸では明が倒れ、援軍を求める使者が日本に来ていました。元贇たちは援軍を送ってもらうべく、尾張藩主義直や幕府に働きかけていますが、それに反対しているのが柳生宗矩
元贇の息子元明にはおこうという女性がいましたが、彼女は佐野主馬、のちの柳生主馬の娘。なんだかすでにいやな予感……。
それにしても、坂崎出羽守が朝鮮人だったというのは、「陰陽師・坂崎出羽守」(『十兵衛両断』所収)の荒山オリジナルかと思っていましたが、調べてみると五味康佑みたいですねぇ。

本篇では、尾張柳生は白柳生。宗矩は黒宗矩です。十兵衛が出てきますが……ま、黒白以前に、雑魚キャラ扱い(笑)。

兵法達者と称する男たちと数限りないほど接してきた元贇にも、こんな傲岸なものいいをする相手ははじめてだった。ほかに何もせず、人に勝つ技ばかり練りあげていると、ときにこうした偏屈者ができる。筋肉の反射能力だけを、とことんまで鍛えあげているうちに、弱いものへの労わりとか、人としての優しさがぜんぶ抜け落ちてしまったのであろう。

……散々な言われようです。
作内で<少林寺拳法>と書いてありますが、当然のことながら<少林寺拳法>は、戦後日本で創始されたものですから、<少林拳>の間違いですよね。 でも<師の道臣>という表記もあって、これは少林寺拳法の開祖宗道臣を思わせるので……わざとかなあ?
十兵衛の死も伝奇的に処理し、ラストもなかなか。おぉ深慮遠大宗矩!一番伝奇色が強いと思いました。

◆「紀州鯨銛殺法」……支倉常長による慶長遣欧使節団に強制的に乗り込まされた鯨とりのしび六。ひょろひょろとして、まったく侍らしくない不思議な常長に対して、しび六は好感をもつようになりますが……。タイトルをみたらわかるように、しび六の銛が使われます。

◆「バスク流殺法」……薩摩藩で藩の交易に携わっていた裏衆の頭領弥次郎は、上役を殺害し、ポルトガル船に乗って弟とともに国外へ逃亡します。そしてマラッカで出会った男がイエズス会のザビエル!出た!
しかも彼は見た目が日本人そっくりで、バスク人だと言うのです。ザビエルはバスク語と文法が同じなのは世界でも日本語だけで、二つの民族はある幻の島から来たと言うのです……その島は○○○○○ィ○!
更にザビエルは、バスクで言い伝えられる幻の金属○○○○○ンを探すため、日本に連れていって欲しいと弥次郎に頼むのですが……。そんな目的で日本にきとったんかい、ザビエル!

前に読んだ『シブミ』にも、バスク語は前印欧言語で、現在の印欧言語とはつながりがないと書かれていましが、まさかこう来るとはなあ(笑)。
Wikipediaで調べてみると、イエズス会の総長ロヨラもザビエルも、書かれているようにバスク地方の出身なんですね。ザビエルと出会った弥次郎も、記録に残る日本人初のキリスト教信者として銅像もあるみたい……失礼しました、さすが新宮伝奇!

◆「韋駄天殺法」……紀州藩の勢力争いに巻き込まれて、四十里を走ったあとお互いに殺し合わねばならなくなった二人の足軽の物語。マラソンでけりをつける話は「水戸黄門」にもよくありますよね(笑)。

◆「妖異南蛮殺法」……ローマ人ロルテスは、金を稼ぐために日本に渡り、山科羅久呂左衛門勝成という名前をもらって蒲生氏郷に仕えるべく、柳生新陰流との試合に挑みます。
ラ、ラグロザエモン?ようそんな名前をつけたな! しかし、彼もまた実在の人物。すごいなぁ、日本……。羅久呂左衛門を仕官させるべく、いろいろと手を回してくれるのが<ひだり>という名の忍び。「彼がなぜ<ひだり>と呼ばれるのか」が引っ張っている謎なんですが(かなり冒頭でばれますが)、ラストまでくると……そんな理由だったの? 甲賀の忍びだっていうし、島左近の推薦状なんかも用意してくるから、てっきり猿飛佐助だと思ったよ、考えすぎた(笑)

非常に面白い一冊でした。少し前に読了した『忍法鍵屋の辻』でもそうでしたが(発表は本書が先)、ストレートな剣豪ものは少なく(本書では皆無)、少し毛色の違った武器や武術なんかを扱うのが特徴です。面白い!