読了本ストッカー『緋友禅』

緋友禅 (文春文庫―旗師・冬狐堂 (き21-4))緋友禅 (文春文庫―旗師・冬狐堂 (き21-4))
著者:北森 鴻
販売元:文藝春秋
(2006-01)


2010/1/28読了。


相変わらず、グッとくる短編ばかり。五つ星でしょう。

◆「陶鬼」……陶子は、同業者の<ツルさん>こと弦海礼次郎が山口の萩で自殺したことを知ります。しかも重要無形文化財にも指定される陶芸家、久賀秋霜の遺作を壊すという事件を起こしたあとで。久賀秋霜の作品は陶子と弦海が袂を分かつきっかけとなった事件にも関わっていました。弦海はなぜ自らの命を絶つ必要があったのか?陶芸家たちの業がまたすごい。

◆「<永久笑み>の少女」……陶子が小説家に出すファンレターの体裁で始まる異色作(まあ全部異色作なんですけど)。古墳を発掘し出土品を売り捌くことを生業とする裏の住人<堀り師>がクローズアップされます。すごい世界だなあ……。
<古墳><盗掘>とくれば、このシリーズでは<税所コレクション>ですが、本作ではそこはスルー。名前だけは出てきます。

◆「緋友禅」……表題作。陶子は偶然入った画廊の作品展で、衝撃的なタぺストリーに出会います。友禅の技法を駆使して造られたそれは、超絶的に難しい緋色を力でねじ伏せた素晴らしいものでした。陶子はその場で作り手の久美廉次郎から作品のすべてを120万で買い上げる約束をしました。ところが久美は殺害され、タぺストリーもどこかに消えてしまいます。タぺストリーの行方を追う陶子のもとに、そっくりな図柄をもった友禅染めの情報が。

◆「奇縁円空」……本編を表題作にしてもよかったのじゃないかと思われる力作。短篇というより中篇です。陶子は生前付き合いのあったコレクターの遺品整理を依頼されます。その中に一体の円空仏が。その生涯で12万体もの仏像を掘ったと言われる円空。真贋の判別が難しいため、鑑定を依頼すべくその円空仏を預かった陶子ですが、ひょんなことから、それが知り合いの銘木屋が古材を提供した贋作だと知ります。しかしその後、銘木屋が人を差して逃走。事件は<鬼炎円空>と呼ばれる円空仏を巡る殺人事件へと発展していきます。
文徳天皇の第一皇子・惟喬親王を始祖と仰ぎ、山中往来自由の御綸旨を有すると言われる<山の民>の<木地師>とか、円空多作者説とか伝奇臭がプンプンで、まるで<連城那智>シリーズみたいです(笑)。