読了本ストッカー:神と魔が裏返るとき……『山田風太郎傑作大全シリーズ#05売色使徒行伝』

売色使徒行伝―山田風太郎傑作大全〈5〉 (広済堂文庫)

著者:山田 風太
販売元:廣済堂出版
発売日:1996-08

2009/2/13読了。

<山田風太郎傑作大全>の5巻目です。本書は、キリシタン関連短編を集めてあるみたいです。

◆「姫君何処におらすか」

……ウィキで調べながら読んだんですが、基本的には史実に沿っています。時は1865年。主人公は大浦天主堂を建てた宣教師ベルナルド・プティジャン。彼は300年ぶりに隠れキリシタンを発見します。これも史実。しかし部漣島という島の隠れキリシタンたちは、決定的に何かが違ってしまっていました。伝奇だなあ~。ラストでプティジャンは気が狂いそうなほど悶絶することになりますが、かくいうプティジャン(やカトリック教会自体)とて、宗教的熱狂を以て同じようなことをしていることを示し、相対化しているところが山風伝奇!

◆「スピロヘータ氏来朝記」

……こちらはさらに山風風味のエロ伝奇(?)。日本人最初の神学生パウロ弥次郎は、師であるフランシスコ・ザヴィエルと共に日本に上陸。布教活動を開始します。タイトル通り、梅毒の日本上陸と絡めて描かれます。タイトルが抜群。

◆「邪宗門仏」

……1613年キリシタン禁止令が布かれます。クララお千絵に、殉教者にさせるほどの宗教心を起こさせたのはなんだったのか?記述師の先祖と目される(笑)ウィリアム・アダムスも出てきます。

◆「奇蹟屋」

……<奇蹟屋>と揶揄された修道士シモン太兵衛の半生を相棒の弥平次が物語ります。彼に奇蹟を起こさせたのは何なのか? さすがにシモン太兵衛は実在の人物では……ない、ですよね?しかし、太兵衛の師であるズニガは実在の人物です。

◆「山屋敷秘図」

……舞台は江戸小石川にある下屋敷、通称<山屋敷>。記述師は全然知りませんでしたが、この屋敷は実在しており、実際にキリシタンを幽閉していたんですね。登場人物もすべて実在の人物です。沢野忠庵となったクリストファ・フェレイラ、岡本三右衛門となったジョゼフ・キアラ、この神と魔が裏返る様子は、山田風太郎しか書けません。

「いや、いや、まだあるぞ、まだおれを、魂のどん底からよろこばせてくれるものが、この世にはあるはずだぞ」

怖い~!

◆「売色使徒行伝」

……表題作。こちらのバージョンのキアラは、史実のように棄教した後、信仰を取り戻しています。キリシタンを取り締まる同心ながら、その裏で布教活動を行う近江源三郎と、遊郭の元締めになることが夢の(笑)漆間春蔵。まったく正反対の性格ながら、どこか仲の良い2人ですが、源三郎がキリシタンを脱走させ、自らも姿を消すところから、事態は急展開。このなんとも無情な感じが……見事な短編です。