読了本ストッカー:五つ星の宇宙開発SF!……『沈黙のフライバイ』

沈黙のフライバイ (ハヤカワ文庫JA)沈黙のフライバイ (ハヤカワ文庫JA)
著者:野尻 抱介
販売元:早川書房
発売日:2007-02


 


 


2009/1/28読了。


野尻氏の既読作品は『太陽の纂奪者』のみ。<クレギオン>シリーズも<ロケットガール>シリーズも読みたいのですが、まずはこれ。



◆「沈黙のフライバイ」



……しょっぱなから、お、面白い!JAXA宇宙航空研究開発機構)に勤務する瑞城弥生は、SETI(地球外文明探査)班に片手間(?)に所属しています。そこに顔を出す上司(先輩か?)の野嶋孝司、その正体は、<恒星間飛行研究会>なる同好会を主催するほどの恒星間探査マニア(笑)。野嶋は<重さ一グラム、切手サイズの探査機を百万個作ってαケンタウリに送ろう>という、予算五十億円の激安計画<サーモン・エッグ計画>を立てます。その時、同じようなシステムを採用した外宇宙からの探査機が!(正確には信号ですが)
  いや、好きです、この短編。『太陽の纂奪者』のラストが若干残念だっただけに、納得のいくファーストコンタクトものでした。さらにラストの余韻がまた!くぅ~!たまらん!
  瑞城が素人的質問(JAXAの職員ですから素人なわけないんですが)をしてくれるので助かります。


◆「轍の先にあるもの」



……2001年2月12日、NASA小惑星探査機小惑星<エロス>に着陸(墜落?)しました。その時送られてきた画像には、謎の轍が。SF 作家である<私>がその謎に恋い焦がれます。あまりに真に迫っていてノンフィクションかと思いきや、2005年に軌道エレベータの建設が始まって、フィクションらしいと分かる始末(NEARのエロス着陸の部分や画像は現実みたいです)。軌道エレベータの建設に着手した会社<テザー・アンリミテッド社>も現実なら、創立者の物理学者にしてSF作家ロバート・L・フォワードも実在。わけわからなくなります。


◆「片道切符」



……2033年、最初にして最期(不況なので……。)の有人火星往還計画によって四名の男女(二組の夫婦)が乗った火星着陸船と帰還船が軌道上に打ち上げられます。しかし、テロにより帰還船が爆発。……まあ若干タイトルでネタバレですが、人類はなぜ宇宙に行くのかってことかな?


◆「ゆりかごから墓場まで



……<ゆりかごから墓場まで=cradle to grave>と名付けられた閉鎖生態系システム。ふとした思いつきから宇宙服サイズ、パーソナルユーズの閉鎖システムとして開発、商品化されます。太陽光さえあれば、汗、排泄物から吐息まですべてを循環させ食べ物も作り出す。そうなれば宇宙でやることはただ一つ。



中国の無人探査機だってもっと快適な空間だったにちがいない。アグニ2号は進行方向についた皿のようなエアロシェルだけで火星大気ブレーキングを敢行したのだ。その裏側に、ハーネスで縛り付けられた五十人の入植者を載せて。


ぎゃはは!やるな、インド植民省!テックシステムみたいなもんか。


◆「大風呂敷と蜘蛛の糸



……これ、すごい!工学部大学生の榎木沙絵は、小型ロケットを使った弾道飛行実験のアイデアコンテストに応募します。到達限界高度10キロのロケットをいかにして高度100キロ、宇宙の入り口まで押し上げるか?沙絵の奇抜なアイデアは教授連のココロを鷲掴み(笑)!いやあ、傑作じゃあないでしょうか?


どの短編も、現実の宇宙開発を下敷きにしている(らしい)ので説得力もあって。断然五つ星!


巻末解説はノンフィクションライターの松浦晋也氏。そういえば、『国産ロケットはなぜ墜ちるのか』手に入れているのに読んでないなあ。