読了本ストッカー:時代を先取りしていた<情報系SF>!……『地球環』

地球環


堀晃  ハルキ文庫


2007/10/14読了。


堀氏の作品は初挑戦です。


<情報サイボーグ>シリーズの短編集(だそうです)。<情報サイボーグ>とは、体内に超高密度LSIを内蔵し驚異的な演算能力と記憶容量をもち、太陽系全域を覆う情報ネットワークのコンピュータ複合体の一部分を成す人間たち、まあファティマですな(笑)。



恐怖省
・・・これは、ちょっとね。SFという感じはあまりしません。日下三蔵氏の巻末解説にあるように第0話と考えた方が良さそうですね。


「地球環」
・・・おお、面白くなってきたぞ! <日本人としての血の記憶><種としての共同記憶>を排して見える<客観的景色>というガジェットは、扱いは異なりますが、山田正紀氏の『現象機械』を思い起こしました(日本人的感情に関するベクトルがまったく逆ですけどね)。


「最後の接触
・・・オチは見えちゃうけど面白い。しょっぱなに書かれてるから書いちゃいますが、<人体の筋肉系を跳躍航行船の操縦装置につかっちゃう>という奇想が・・・。


「骨折星雲」
・・・太陽系から見て射手座方面の遠宇宙、八千万光年の彼方に存在する通称<骨折星雲>。それは銀河系が直角に折り曲げられた形をしています。<情報サイボーグ>マキタは跳躍航行船<マグノリア>に乗って調査に向かいます。これは面白い!なぜこのような現象が起きたのかという魅力的な謎を探るSFミステリ。跳躍航行船(ワープシップ)が超空間航行中には、



前面のスクリーンは超空間飛行特有の輝きを放っている。(中略)なれない人間は無意識のうちに心的外傷に触れるパターンを読み取って錯乱することがある。それを防止するために、星や星雲が背後に飛び去る“実感映像”が映されることがあるが


という記述があって、富野ガンダムにもそんな記述があったなあと思い出しました。ラストの回答も面白かったです。


「宇宙猿の手
・・・前編「骨折星雲」が<情報サイボーグ>側の視点だったのに対し、本編は<情報サイボーグ>を乗せる操船技術者の視点です。冥王星外軌道に浮かぶ○○○(一応伏せ字)・・・すごい奇想だなあ~。こんな出だし、田中啓文氏くらいしか思いつかないよ、たぶん(笑)。


「猫の空洞」
・・・猿の次は猫。未来予知が未来の可能性を摘み取るという設定はよくありますが、



「時間はエントロピー増大の方向に流れています。エントロピー増大系とは、多くの初期状況から、最終的に同一の終期状態にいたる系といえます。過去の記憶を選ぶかぎり、われわれはそこに因果関係を把握し、原因から結果を予測し、これによって環境の変化に対応してきた」
「だが、予知能力があれば、結果の予測は必要ないはずだ」
「そのとおりなのですが、未来の記憶を優先させて、過去の記憶を退化させたとなると、やはり生存には不利になります。記憶どおりの未来に能力に応じて最も効果的に適応はできるが、能力の限界以上に適応することは不可能です。最終的には、過去の記憶を選択した方が生存競争に勝ち残ったことになる」


のように対立させたのは新しい(わかったようなわからないような理論ですが)?  堀版『時間衝突』というか(笑)。


「蒼ざめた星の馬」
・・・もちろんヨハネ黙示録のもじりです。初めて<情報サイボーグ>の老いの問題が語られます。<情報サイボーグ>には個別に存在理由が設定されており、その存在理由が果たされたとき(例えばフェルマーの定理の証明など)頭脳に停止命令が出ます。その停止命令が出ないうち(問題が解決されないうち)に肉体の限界がきた場合、それが<情報サイボーグ>の老いです。


「過去への声」
・・・過去へ電波を飛ばすことによる過去改変がテーマ。う~よくわからん!でも分かった気にさせる、この図(必見です!)がすごいよ(笑)。ちょっと笑えるお話です。


宇宙葬の夜」
・・・「蒼ざめた星の馬」と同じく<情報サイボーグ>の老いがテーマ。


「虚空の噴水」
・・・<星相解析士(スターフェイズ・アナリスト)>という人造生命体を主人公にした<情報サイボーグ>が登場しない異色作。さすが日下氏、見事なチョイスです。二連星、クェーサージェットビームなど印象的な景色が盛りだくさん。


「柔らかな闇」
・・・水星の南極で発見された高さ4メートル、直径3メートルの黒光りする円柱。調査中に打ち出されたのは光も電波も何も通さない遮蔽膜<big-furoshiki>。まるでクラークの『2001年宇宙の旅』+イーガンの『宇宙消失』ですが・・・。日下三蔵氏の巻末解説によると20年ぶりに書かれた<情報サイボーグ>シリーズの最新作とのこと!すごいなあ、他の作品と比べても違和感ないもんな。


バビロニア・ウェーブ」
・・・「骨折星雲」のマキタは<情報サイボーグ>でしたが、こちらのマキタは人間です。これも面白いです。太陽から三光日の距離で銀河系を垂直に貫通する直径五百万キロ、全長八千五百三十光年の定在波レーザーが発見されます。その成因は不明のまま、人類はエネルギー黄金時代を迎えますが、人類が恒星間飛行に利用しようとしたとき・・・。


長編化した『バビロニア・ウェーブ』が創元SF文庫から2007年2月に復刊されている模様。これは読んでみたい。情報省とかの設定は除かれているということなので記述師好みのハードSFの予感。


すべての短編に共通するのは<もう誰も中枢にはいない>という恐怖(諦観?)ではないかと。いろんな陰謀(というか計画というか)が進んでいるようなのですが、誰が首謀者かは判然としない、というか誰も何もたくらんでない可能性もある(笑)。そんなストーリーです。
多くは<宇宙の彼方で不可解な現象が起きる>→<情報管理官(サイボーグ)&普通の人間が派遣される>→<情報管理官と普通の人間が自らの内面と向き合う>というパターン。<種族的記憶><情報メモリー空間><多元宇宙><波動関数収縮><過去改変><フェッセンデンの宇宙>と考えられる限り(?)のSFガジェットが<情報>というキーワードと掛け合わされて投入されています。気になるのは同一人物の会話なのに敬語と混じることかな。「骨折星雲」と「柔らかい闇」、そして「バビロニア・ウェーブ」がスケール大きくて好きです。


満足満足!長編『バビロニア・ウェーブ』への期待も込めて、五つ星!


ちなみに、本書の書影を挿入しようとして「地球環」で検索すると、これが先頭に出てきました↓ なんでや、そのままビンゴのタイトルが2番目って・・・。


環境省・環のくらし応援団 さかなクン、♪鳥くん、琉球サンゴくんの地球の環!!