読了本ストッカー:ほんとにそんなに読んでどうするの?……『そんなに読んで、どうするの?#縦横無尽のブックガイド』

そんなに読んで、どうするの? --縦横無尽のブックガイド


豊崎由美  アスペクト


2007/ 6/13読了。


昨年末に買って、ようやく読了しました。


いや~満腹満腹。これまた読みたい作品にポストイットを張りながら読んだのですが、後半の「世界文学編」にはほとんどの作品にポストイットが付きました(笑)。SF寄りの作品は大森望氏が網羅してくれるし、メタフィクションとかスリップストリーム系の作品は豊崎氏がカバーしてくれるし・・・この二人さえ押さえておけば、記述師のストライクゾーン作品はほとんどコンプリートできるんじゃないでしょうか?(『本の雑誌』を買えってことか?)


文学賞メッタ斬り!』に代表されるように、辛口書評ばかり採り上げられる豊崎氏ですが、本当に「本」への愛情溢れる書評が、本書には盛りだくさんです。特に、その作品ごとに冷静に評価し、決して作者によって出来不出来を決め付けないところがすごいと感じました。
例えば村上春樹氏にしても、『アフターダーク』に対しては・・・



えっ? んで? だから何?(中略)これが出版される前、版元の講談社は粗筋に関して緘口令めいたものを敷いてですえ、(中略)こんな程度のプロット、なぁーんも隠す必要ないでしょ。(中略)あ、逆にこんな程度のひねりしかない小説だから、ある種の情報操作で読者の飢餓感をあおらなきゃバカ売れしないとでも怯えたんでありましょうか、ひょっとして。(略)『マグノリア』の一〇分の一の感興ももたらさない凡作というべきでありましょう。


とケチョンケチョンにけなしたかと思うと、ティム・オブライエンの『世界のすべての七月』の欄では・・・



作家の村上春樹さんもまた、ハズレなきメキキストの一人。そして、ティム・オブライエンはそんな村上さんがこよなく愛する作家なんであります。(略)村上春樹の紹介作品にハズレなし、の法則は今回も健在なんでありました。


とべた褒め(まあ、目利きを褒めたんであって、著作を褒めたわけじゃないですけど。もちろん『レキシントンの幽霊』とか褒めてるものもあります)。記述師は好きな作家だと、ちょっとおもしろくないと感じても「いや、そう感じる自分がおかしいのかも?」と弱気になってしまうし、一度いやになった作家は冷静に判断できないタイプなので、豊崎氏のこの姿勢には感服です。


また



でも、「書く」「読む」という関係性をクールに突き詰めれば、そこ(小説の中の仕掛け※引用者註)に行き当たるのは必然といえる。一九世紀までの小説では、作中いきなり作者が登場して状況説明をやらかしたものだが、二〇世紀に入って小説家は、作為性を巧妙に隠蔽するテクニックを身につけた。だがしかし、作家は厳然と存在するのだ。そして「創っている」という自意識のない作家は、もう圧倒的に古臭いのだ。


という文章にも表れているように、、「語り=騙り」など小説内の仕掛にも敏感でな豊崎氏は、記述師御用達のレビュアーなのです。


文学賞メッタ斬り!』シリーズもどうやら年度版化されたみたいだし・・・2作目の書評集『どれだけ読めば、気がすむの?』も出たし・・・文庫化されないよなぁ。


さらに世界文学は異様に文庫が少ない・・・。当然といえば当然ですが。とりあえず文庫を持っている版元の作品は置いといて、文庫化絶望的な国書刊行会あたりから・・・攻めるか?(105円コーナーを・・・涙)
いやいや、東京創元社あたりも油断はできません。『薔薇の名前』とか単行本が売れるから文庫化しないやつもあるし・・・。


なにはともあれ、文句なしの五つ星ブックガイドでした。