読了本ストッカー:山男たちの執念!……『強力伝・孤島』

強力伝・孤島
新田次郎  新潮文庫


2007/6/13読了。


新田次郎氏は『八甲田山死の彷徨』『孤高の人』に続いて3作目。初期短篇集です。



「強力伝」
・・・第34回直木賞受賞作。昭和初期に実在したある強力をモデルにした作品です。富士山強力の中でも最も力持ちである小宮正作は、白馬山頂に50貫ある花崗岩を二つ、風景指示盤として使用するために運び上げる役目を負います。1貫が約4キロとして・・・200キロ!しかも×2! 小宮はその性格の良さから、白馬の山男の協力も得、行動に移るのですが・・・。山岳小説にはお決まりの豪雪や猛吹雪はでてきませんが、それを上回る静かなプレッシャーの描き方が抜群。読んでいて胸が苦しくなります。


八甲田山
・・・明治35年に起こった、八甲田山での雪中行軍中の大量遭難事件を扱った作品。これをもっと詳しく書いた作品が『八甲田山死の彷徨』です。『八甲田山死の彷徨』では、二つの大隊の行動を描きますが、本短篇では青森歩兵第5連隊・第2大隊の遭難のみ。それにしても凄まじい遭難です。北国経験のない記述師にとっては、これって日本の話?という感じ。長編では事件の時代背景や、人間関係なども書き込まれていましたので、本作の方が山岳小説としてはストレートです。


「凍傷」
・・・昭和5年(1930年)、富士山観測所の開設を目指して越冬観測に挑む佐藤順一技師と強力の梶房吉の物語。ほぼ実話らしいです。検索してみると、気象学の権威として気候観測所の設立に力を尽くした皇族、山階宮菊麿王なども勿論実在の人物でした。富士山に永年観測所を作るまでにとても長い歳月がかかっていたんですね。記述師は2回富士登山しました。1回目は友人たちと登って7時間くらいで往復しました(若かったなあ~)。2回目は2,3年前。妻と登ったのですが高山病にかかり、あえなく途中下山。く、くるしかったなぁ、高山病。5メートルくらい歩いては吐きまくりでした(うぇ・・・思い出した)。しかも今は5合目からのスタートですからね。当然麓からスタートする当時の冬期登山はどれほど凄まじかったことでしょう。
気象庁のHP富士山測候所の沿革が記されており、佐藤順一氏の名前も見られます。ちなみに平成16年に常駐観測は廃止されています。


「おとし穴」
・・・新田氏はもちろん山岳小説ばかり書いているわけではありません。山犬用のおとし穴に誤って転落してしまった万作。その穴の底には・・・?鮮やかな幕切れです(笑)。


「山犬物語」
・・・シートンの『狼王ロボ』の日本版?(全然違う)。


「孤島」
・・・男ばかり15名で半年から一年暮らさなければならない、鳥島の測候所の生活を描いた作品。話の展開から大量殺人でも起きるのではとドキドキします。男ばかりの生活だと(“閉鎖環境”が問題なんであって、女性がいても同じだとは思いますが)こんなになるのかなあというリアルな書き込み。


新田氏の作品で現在手に入れて未読なのは『アイガー北壁・気象遭難』。早めに読みたいです。