読了本ストッカー:『対談集 僕はやっぱり山と人が好き』沢野ひとし/角川文庫


遠藤甲太
「僕にとって山は陶酔と失墜の体系だと思うんですよ。要するに、酒を飲んだり、純粋な芸術だとか生殖を伴わないセクシャルスとかいう、まったく生産的じゃない、マイナスのすごく大きいもの。これは本当に利益をまったく考慮しないんで、キザに言うと水道の蛇口から水がほとばしるような一方的な浪費で、本当に命までも浪費しちゃうという、クライミング、隠微なね。もう文部省の絶対推薦しない山登りを僕はやってきちゃいましたね。楽しい山登りは否定しないし、今の僕はむしろ死ぬのがこわくて、そんな浪費の山登りはできなくなっちゃいましたけど」
江本嘉伸
「だから、僕はあのときもしつこくシェルパの死にこだわった。つまり成功とだけ言えるもんじゃ本当はないんだ、と。その点メスナーはすごいね。彼は失敗も多いんですよ。登れないことも多いけど必ずちゃんと下りてくる。それは僕は失敗とは思わないんで、つまり登れなかったことが多いだけなの。彼も仲間を亡くしているという過去はありますが、なにはともあれ、もどってくるということについての彼の強さを僕はひしひしと感じるね。というのも、僕は生き抜くことが登山の本質のひとつじゃないかと思っているから。むしろ死によって登山は堕落する」

山登りをめぐるさまざまな人々の、いろいろな考え方が提示されます。
上に引用した遠藤甲太氏のような、命を蕩尽するような山登りをよしとする考え方から、江本嘉伸氏のように、「死によって登山は堕落する」と言い切る考え方まで。


内容(「BOOK」データベースより)

エベレストから滑降した冒険スキーヤー、冬のチョモランマに挑む登山家、自然とスピリチュアルに一体化した詩人、新宿-松本間を40年往復した車掌さんの山旅、立山の麓で家具をつくる男―。それぞれの仕事の中で生き方としての「山」をきわめた男たちと、森の空気を糧にするイラストレータ沢野ひとしが、大きな冒険から小さな花の風景まで、とことん語り明かした山の一冊。