本書はミステリと
幻想文学の狭間って感じでしょうか。
◆「
女形の橋」……
女形の歌舞伎役者を引退した〈わたし〉が語る、出演するはずだった映画のシナリオ。
山間の村で、死んだ人間の罪を食い生きていく人〈悪食べ〉。まるで
ル=グウィンの「オメラスから歩み去る人々」 みたいでした。
巻末の小林孝夫氏の解説によると、作中作の映画に出てくる人物像は○○○だったようですね。ヒントもあったようなのに、勉強不足で全然気づかんかった……。
◆「水鏡の宮」……ミステリ的仕掛けのある短編。
劇作家界の重鎮東坊雄太郎の妻、松野宮子。彼女の死後、姪の史子は遺品の中から〈水鏡の宮〉という言葉を見いだし、それを探ることになりますが……。
◆「燿い川」…〈かがよいがわ〉と読むようです。
小説家の滝村は俗世を捨て、田舎で自給自足の生活を送っています。そこに、友人の息子で、人気絶頂の俳優である高原雄介が訪ねてきます。
◆「舞え舞え断崖」……表題作。姉妹そろって八十歳を超えた詩人の日折真船と、画家の日折流子。
ふたりはそれぞれの自宅を売り払い、ある崖に揃って終の棲家を構えています。何かが起こりそうで、何も起きない物語。
◆「悪戯みち」……
宮本輝の『避暑地の猫』のような子ども時代のエロチックな挿話かと思いきや、衝撃的なラストを迎える短編。
〈ほんとうにこの道は、あの
カサブランカのビー玉に青い宝石のようなきらめきを見た日からはじまっているのだろうか〉という文章がぐっときます。
◆「柩の都」……最もミステリっぽい短編。教師の津市大介は、教え子の祖父高田和吉の訪問を受けます。
教え子の滋子が一年も前から行方不明になっているとのこと。滋子から京都発のハガキをちょうど一年前に受け取っていた大介は、京都を訪れ、滋子の行方を追いますが……。
◆「黒馬の翼に乗りて」……
伝書鳩を飼育する高校生の友明は、ある日他の鳩が迷い込んできたのを捕獲します。
鳩は飼い主の元に帰りますが、なぜかまた迷い込んできます。今度は
万葉集の恋の歌を、その通信管につけて……。