読了本ストッカー:老子が主人公の中国SF、あります!……『星は、昴』谷甲州/ハヤカワ文庫JA



2017/3/21読了。


谷甲州氏の短編集です。
完全版が刊行されはじめた【航空宇宙軍史】シリーズに代表される「ガチガチの理工系ハードSF(C)水樹和佳子」の印象が強い氏ですが、情報系宇宙SF、かな?

著者あとがきにもあるように「もっとも今になって読み返してみると、おなじアィディアを執拗に追いかけていたり(単に何度も使いまわしたともいうが)」という印象も。


◆「フライデイ」……恒星間有人探査船のたったひとりの乗組員「私」。30年の冷凍睡眠(主観的には1年)から目を覚ました「私」に突然話かける声が! 「おはよう、船長。私はフライデイだ」

情報生命体と出会った人間を描きます。まったく原理については語られない(光速度を超える情報速度を有したりするのに)ので、文系SFっぽいです。


◆「私の宇宙」……今度は情報生命体側からの視点の物語。といっても「フライデイ」と関連があるのかは不明。


◆「コズミック・ピルグリム」……太陽系を発進し、500年以上、6万光年の距離を踏破した観測船ピルグリム7。
観測員の「私」と支援コンピュータ「サラ」を載せています。
銀河の最外縁近くに達し、観測する星団にも出合わなくなったとき、ある白色矮星が、急速な移動をみせていることが観測されます。


◆「敗軍の将、宇宙を語らず」……えーと、農業用ブラックホールをちぎっては投げ、ちぎっては投げ、するお話……です(笑)。


◆「星は、昴」……表題作。散開星団の観測基地に勤める寺沢博士とターナー博士。ふたりの基地間には38光日の距離があります。
その距離を利用して、リアルタイム通信をしてたわいもない話をするふたり。しかしある日、寺沢博士はターナー博士の声の遅れから、近くに大質量が存在する可能性に気がつくのですが……。


◆「時の檻」……著者あとがきによると、「版元である徳間書店に媚びを売ることを考えて」書いた中国SF。

「どうも中国と徳間書店は相性がいいらしい。それなら中国を舞台にした本格宇宙SFを書けばいいではないか、などと短絡的に考えて「時の檻」を書いたのだ。実をいうとこのあとすぐに、山岳雑誌から山岳小説の執筆を依頼されて山岳宇宙SFを書くという強引なこともやっている。中国と宇宙SFの組み合わせくらい、なんでもない」

とのこと!


◆「道の道とすべきは」……もう一編の中国SF(笑)。なんと主人公は老子です!ラストの老子がもう……すごいことに。


◆「ホーキングはまちがっている」……宇宙殺人(?)事件を描きます……。

「あの……さっきから気になっていたんですが、この死体はアリストテレスプトレマイオス宇宙さんじゃないような気がするんです……。(中略)死体の中心部分をみてください。収縮の中心は、地球ではなく太陽になっています。つまり死んだ宇宙は、地動説を採用していたことになります」

すごいこと考えつくなあ!


◆「星殺し」……自軍の後方支援基地としてある星系を開発する使命を帯びた存在のやり口を描きます。もう本当に「やり口」といった感じで、星系の生物にとってはいい迷惑なんです……。


◆「猟犬」……宇宙SFホラー、かな?