読了本ストッカー:連城マジックふたたび!……『夜よ鼠たちのために』連城三紀彦/宝島社文庫



2016/09/05読了。



久々の連城三紀彦作品。短編集でした。

◆「二つの顔」……画家の真木祐介が、自宅で妻を殺して(!)埋めたところに(!)、警察から電話が。曰く「奥さんが新宿のホテルで殺されました」……。おお、もう不可能犯罪!
若干アンフェアな感じもしますが、妻を殺害する動機が連城節。真木は妻に出会ったとき、芸術的インスピレーションを得て、妻をモデルとする傑作をものするのですが、それによって、モデルである妻は必要なくなるわけです。
渡仏時代、私はパリの古物市場で、ロジェ・ガルラスという戦前の名高い画家が、静物画の画材に使ったと称する皿を見た。その皿に、私は背筋の寒くなるのを覚えた。ガルラスの魂が、その皿から、皿自体の存在感まで奪い取ったかのように、それは、ひび割れ、古び、無意味な品にかわっていた。皿についた二六五フランという馬鹿げた値段が、ガルラスの絵を冒涜しているようで、私は怒りさえ感じていた。契子の存在も。その皿のように、肖像画を完成した時点で、なんの意味もなくなったのだった。

◆「過去からの声」……誘拐ミステリ。誘拐事件を機に、突然退職してしまった若い元刑事が、真相を告白する形式です。

誘拐ミステリはおそらく多々書かれていて、本作のトリックがどのくらいのレベルにあるのか、不勉強でわからないのですが、伏線はきれーいに回収していて、素晴らしい出来だと思います。

◆「化石の鍵」……車椅子の少女、千鶴がアパートの自室で襲われます。しかし、その部屋はドアノブを新しいものに取り替えたばかりで、誰も入れないはず。はたして?

◆「奇妙な依頼」……興信所に勤める品田は、土屋という男から、妻の沙矢子の行動を調査することを依頼されます。しかし、その尾行はなぜか沙矢子に気づかれ、土屋を裏切り、自分のために調査するように、依頼されます。さらにそのことを土屋に気づかれ……というふうにどこまでも(?)反転し続ける依頼……。

◆「夜よ鼠たちのために」……病院の院長が殺され、捜査線上にその病院で亡くなった女性の夫が浮かびます。しかし、その女性の死因は明らかで、病院に落ち度はなさそう。警察は逆恨みの犯行かと考えますが……。


◆「二重生活」……ひとりの男性を巡る、愛人と妻。いや、連城マジックにかかると、その大前提さえもが……。

◆「代役」……妻を殺すために代役を仕立て、新幹線に乗り込む人気スター支倉竣。その、自分そっくりな男性に会ったのは……。という導入から、この結末……、つ、辛すぎる!

◆「ベイ・シティに死す」……トリッキーな本短編集の中では、普通小説(?)寄り気味。



◆「ひらかれた闇」……「あなた達が信用していないのは、警察でも大人達でもなく、あなた達自身よ。自分さえ信じていれば、こんな事件……」という若干薄ーい人生論が……あまりいただけない。
しかし「二重」「ふたつ」「いれかわり」といった対称性をぐちゃぐちゃにいじる連城マジックが炸裂しまくり……。ほんとすごいなあー!