読了本ストッカー『麻雀を打つ剣豪』

麻雀を打つ剣豪 (講談社文庫)
著者:松野 杜夫
販売元:講談社
(1987-11)


2010/3/17読了。



本のタイトルから剣豪が麻雀で闘うパロディ的なものを想像していたのですが……良く考えたらそんなことぐらいで目黒考二氏が推すわけないですよね……しっかりとした伝奇時代小説でした。
史実では(Wiki史実ですが)、日本に麻雀が伝来したのは明治時代。
しかし本書では、天正六年、すなわち1578年に、明国無双の剣の遣い手十官という人物が伝えたとされています。そして剣術の妙に相通ずるものがあるとして大流行(笑)。
記述師は麻雀詳しくないため、よくわかりませんが、
「それほどの武芸者たちに麻雀がもてはやされるというのは、いかなる訳でございましょうや」
「麻雀という業は、ただの遊びではない。兵法鍛練に敵う勝負事じゃ。互いに謀を巡らせ、心気を澄まして対手の手の内を読む。間合を見極めて勝負に出、或いは退く。まこと剣理に通う競い事と申せよう」
とのこと。

◆「山崎重政 飛竜剣一乗谷」……山崎重政とは、後に<名人越後>と呼ばれる中条流の剣客、戸田越後守重政のこと。
個人的には、<小太刀>に惹かれていて、柳生よりも戸田メインの小説がないか探しているところなんです。
山崎重政の師である戸田景政は前田利家に仕える身。その支配下にある七尾城に麻雀牌を手裏剣がわりに遣う侵入者が。
景政は、一乗谷に隠居する兄、戸田勢源に重政を使いにだし助力を乞います。
ここで出てくるのが麻雀! 重政は勢源と、勢源の弟子である佐々木小次郎、さらに明の武芸者陳栄進らと雀卓を囲むのです。
本書では、共に雀卓を囲むことによって、その人物の心根や剣力を測るわけです。

◆「神子上典膳 一刀流秘剣」……本編の主人公は、後の将軍家剣術師範小野忠明です。
第一話より幾分時代が下る本編では麻雀も普及しており、神子上典膳が仕える里見義頼をして
「陳栄進という名は聞いておる」と義頼が言った。「先年下総に来て麻雀を伝えたのがその者の由じゃ。以来上総からこの安房まで麻雀は行き渡った。当家でも武術錬磨の一法としてこれを奨めておる」
と言わせるまでの繁盛ぶり(笑)。
典膳の剣名を知りやって来たのが、かの伊藤一刀斎景久。典膳は一刀斎の弟子となり、麻雀や一刀斎の奥義を学びます。

◆「柳生十兵衛 隻眼の牌譜」……柳生新陰流の高弟、田中甚兵衛は、肥後加藤家に指南役として仕えています。
ある日、藩の重役連に麻雀相手として召し出された甚兵衛は、加藤家とり潰しを狙う幕府内の勢力を取り除くことを依頼されますが……。
出た! 柳生! そして今回の宗矩は、白宗矩(笑)。
「それにしても加藤家重臣たちの忠誠はこの書状に明らかじゃ。幕閣の政事に関わる方々が、事あれば外様大名を取り潰そうとされるのも公儀への忠誠ではある。したが、伊豆守殿は小姓組番頭、政事への容喙は野心あってのことと断じられて止むを得まい。かかる野心のための策謀に、忠誠の方々がおとし入れられるとすれば、天下の正剣を称える又右衛門として看過は出来ぬ」
と言うほどの白宗矩(笑)。
将軍家光も麻雀を打ちますし、十兵衛が致仕したのも、隻眼になったのも麻雀が原因とは!

◆「荒木又右衛門 伊賀の剣光」……又右衛門の伝奇傑作といえば、記述師には新宮正春氏の「忍法鍵屋の辻」が思い起こします。新宮氏の作品のほうが好きかなあ。
「忍法鍵屋の辻」では又右衛門の刀が折れた理由とか、斬り合わせた順序とかを余すところなく伝奇的に説明しているところがスバラシイので。
本編では、遠因となった渡辺源太夫と河合又五郎のいさかいも麻雀(笑)。恐るべし松野伝奇!

◆「平手造酒 滅びへの剣」……平手造酒については名前くらいしか知りませんでした。時代はさらに下っていますので、麻雀も武家だけではなく、庶民にも広まっています。
となると当然出てくるのが、博徒たち。造酒は北辰一刀流千葉周作の門弟で、白井亨からも絶賛されるほどの腕前でしたが、身を持ち崩し、繁蔵の用心棒に。
大前田英五郎、国定忠治清水の次郎長などもちらっとでてきます。

本書のことをどこで知ったのかなあと思って調べなおしたら、目黒考二氏の『活字三昧』からでした。
『幕末麻雀新選組』っていうのもあるらしいんですが、どうやら未文庫化。気長~に待ちましょう。時代小説バブルだから、突然復刊するかも知れないしね(笑)。