読了本ストッカー:この自費出版みたいな表紙で損してる……『カオスの紡ぐ夢の中で』

カオスの紡ぐ夢の中で (小学館文庫)カオスの紡ぐ夢の中で (小学館文庫)
著者:金子 邦彦
販売元:小学館
発売日:1997-12


 


 


2009/3/9読了。


カオス研究の第一人者(たぶん)東大大学院教授、金子邦彦氏の科学エッセイです。
同時に読んでいた『瀬名秀明ロボット学論集』といろいろと重なる部分があって混乱しました。結局<複雑系>とは<カオス>とはなんなのか、全然解決しませんでしたが……。


面白いのは、後半の小説。「カオス出門」は、悪魔によってカオスを消された世界の話。マックスウェルの悪魔とかラプラスの悪魔とか出てきて笑えます。カオスが世界にどのような影響を与えているか、端的に教えてくれる秀作です。


「小説 進物史観」は、バリバリ『ゼウスガーデン衰亡史』の影響が感じられる(著者自身も言っています)偽史小説。天才科学者によって創造された物語生成プログラムたち。最初は陳腐な物語しか紡げないプログラムたちですが、<面白さ>を評価する基準として、<読まれること>を選択、つまりアクセスされることによって淘汰されていく(面白い物語が生き残っていく)システムに作り直された事で、次第に創られた物語群が世間と参照をはじめ……。まぁ、現代の携帯小説を予言したといいましょうか(笑)、面白い小説です。いかんせん短いですけれど。


円城塔というペンネームの物語生成プログラムが出てきて驚きましたが、ウィキでみると、円城塔というペンネーム自体が本書から取ったのですね。不勉強でした……。


結局カオス自体の謎はまったく解決しなかったのですが、カオスとは、科学自身が自己に言及し、主観的であることを受け入れつつ、それでも進んで行こうとする姿なのかなあと、ぼんやり考えました。


しかし、本書はこの自費出版みたいな表紙で大損していると思います。もったいない!