読了本ストッカー:静かなる諜報小説……『ヒューマン・ファクター』

ヒューマン・ファクター―グレアム・グリーン・セレクション (ハヤカワepi文庫)ヒューマン・ファクター―グレアム・グリーン・セレクション (ハヤカワepi文庫)
著者:グレアム グリーン
販売元:早川書房
発売日:2006-10


 


 


2009/2/5読了。


いやあ、『二一の短編』で挫折しなくて良かった~と思いました。さすがスパイ小説の傑作と名高い作品。五つ星確定です。


なんだかいろいろと引用したくなる文章に彩られています。



偏見にはどこか理想と共通するものがある。コーネリアスミュラーには偏見がなく、理想もない。


などなど。


主人公はモーリス・カッスル。イギリス情報部のアフリカ担当部門に勤める公務員です。南アフリカ駐在時に工作員として使った女性セイラを妻とし、郊外から電車で通い(駅までは自転車)、毎日書類の整理をして過ごす日々。同僚や上司の内面も描写されるのですが、みな大したこともない毎日に膿み、秘密(秘密なんてほとんどないのですが、職場で起きたことなども喋れないので。)を家族に話すこともできず、壊れた(進行形も含めて)人物ばかり。そんな中、カッスルの部署に機密漏洩の疑いがかけられ、内部調査が行われることに。果たして?


銃撃戦とか、拷問とか、秘密兵器とか美女とか一切出てきません。登場人物がなにかとイアン・フレミングをおちょくる(?)のが笑えます。静かなる諜報小説。かといってドキドキする場面がないわけではなく、特に終盤では静かにドキドキ(病気か)してしまいます。しかし……ラストはそこで終わるか~という感じ。


池上冬樹氏(池澤夏樹&春菜親娘と混乱するのは記述師だけ?)の巻末解説によると、遠藤周作グレアム・グリーンに深く傾倒していたようです。グレアム・グリーン=元諜報部所属=カトリック信者という図式は知ってはいましたが……<宗教>というものは二人の創作活動の背景に色濃く影響しているのですね。


旧訳ではカッスルの一人称は<俺>だったようです。<スパイ小説>ということでなったのでしょうか。いやいや、やはり本書では<私>でしょう。新訳で読んでよかったです。カッスルの内省的、かつ禁欲的な部分がはっきりと伝わってきます。


次は『第三の男』です。買ってはあるはずなんですがどこにあるのか……。まあ発掘されるのを待ちましょう。