読了本ストッカー:<寓意>とはこれだ!……『ピュタゴラスの旅』

ピュタゴラスの旅 (講談社文庫)
著者:酒見 賢一
販売元:講談社
発売日:1994-01


2009/1/21読了。


酒見氏の作品は『後宮小説 (新潮文庫)』『墨攻 (新潮文庫)』に続いて3作品目。酒見氏の処女短編集ということです。



◆「そしてすべて目に見えないもの」



……お?酒見氏ってこういうのも書くんだ。メタミステリ的小品です。山口雅也氏にもっと突き詰めた作品があった(それ以外にもそれこそ星の数ほどあるでしょうけど)と記憶しているので、幾分突きが浅いかな?


◆「ピュタゴラスの旅」



……表題作。てっきり、ピュタゴラスが数学的に宇宙の神秘を見る、というような作品だと思っていたので(なぜ?)全然違ってびっくり(笑)。ピュタゴラスと愛弟子のテュウモス。ピュタゴラスの数理論こそが真理を解き明かすと信じるテュウモスは、<魂の浄化(カタルシス)>を求めて旅をするピュタゴラスに若干歯がゆい思いをしています。漂泊の人ピュタゴラスの生き様を描いた短編です。


◆「籤引き」



……これが一番好きだなあ。英国人メイクハム・リチャードソンは、植民地であるイチクナ村に領事として住んでいます。そこでは犯罪が起こった場合、籤引きで犯人を決めるという習慣(お祭り騒ぎ?)があるのですが……。



  籤引きで犯罪を決裁し、それに娯楽を見いだすがごときは、我々の法律理念に真っ向から刃向かうものであると信ずる。私、イチクナ村に領事として赴任したからには、必ずやこの悪習を良俗に替えるであろう。


ま、いつの世にもお節介な奴はいるものです。恐怖小説としてもグー。


◆「虐待者たち」



……飼い猫のミヤを虐待されたサラリーマンの江藤は、会社を休職して犯人を探し求めます。ファンタジーか現実か?


◆「エピクテトス



……古代ローマの高名な(知らなかったけど……。)ストア派哲学者エピクテトスが、奴隷として生活しながら自らの信念を貫く様を描きます。ネロ皇帝なんかも出てきて……主客逆転古代ローマSM小説、と言えませんでしょうか?(言えない。)


普通の歴史小説っぽいものもあったりして、バリバリのファンタジーというわけではないですが、酒見氏のふり幅が見える作品集でした。


次は『十二国記』の次はこれを読め!と言われる(?)伝奇SFファンタジー(?)『陋巷に在り』だっ!……その前に集めないとね。