2007/10/3読了。
ホラー系短編集です。巻末にある初出の表記を見ちゃうとなんとなく話の流れを意識してしまうので、見ないことをオススメします。
「一九七七年の夏休み」
・・・田舎の家、開かずの間。王道の設定ですが森氏にかかると・・・そりゃこうなりますわな~。
「一郎と一馬」
・・・いつまでも年をとらないどころか、どんどん若くなっていく父親・・・こわっ!
「美少女復活」
・・・大学生の彰と友人の設楽が歩いているとき、道端の公衆電話が鳴ります。設楽が取ってみると、そこから聞こえてきたのは、その近くで事故死したクラスメートの美少女、尾崎さんの声? 『ノンセクシュアル』のときも思いましたが、こういう・ノンストップ・コメディー・ホラー(笑)かかせると右に出るものはいませんね。
「カンズメ」
・・・作中作の同士が書きあうという、メタホラーの見本のような作品。
「翼人たち」
・・・これ面白いなあ。<同性愛者には同性愛者にしか見えない翼がある>という伝説(いいすぎ?)をめぐるお話。
「過去の女」
・・・ホラーかな? 救いがありすぎるところが、森氏らしくないような(勝手な意見ですが)。
「グラスの中の世界一周」
・・・
「シロツメクサ、アカツメクサ」
・・・表題作。う~、混乱する~。一体誰が書いた手記なのか?カバー絵のとおり素敵な作品。さすが山本タカト。
「語る石」
・・・5歳の麻衣子の話し相手は、父の書斎に置かれていたひとつの石。
「昨日の夜はね、麻衣子、シーラカンスを食べたんだよ」
(中略)「シーラカンスなんぞが晩のおかずに出るわけがなかろう。シーラカンスは、生きた化石だ」
(中略)「でも、昨日、食べたよ」
自信満々で私が答えたので、石は困ったように黙り込んだ。どうしたもとかと考えているようだった。
やがて、石は私に聞いた。
「もしかしたら、それはシイラのことじゃないのか?」
「うん。シイラだよ」
「シイラとシーラカンスは別のものだ」
「えっ?」
私は驚き、訊いた。
「シイラはシーラカンスの略称じゃないの?」
「略称、って・・・おまえ、難しい言葉を知ってるな。けどシイラはシーラカンスとは違う。そこのところは覚えておけ。おかずになるのは、大抵はシイラだ」
ほのぼの~(ほえ~)。ええ話や~。
というわけで、とても面白い短篇集でした。特にエロが物語と密接に関連している「翼人たち」がお薦めです。
最後に笹川義晴氏の解説の中から、一文を引いてお別れです。
ここでは、現実と妄想はまさに等価に置かれ、やがて束の間ひとつに溶け合う。それはもしかすると、森作品の中で最も幸福な瞬間かもしれない。だが、その幸福もまた幻想に過ぎないということを、森奈津子は誰よりもよく知っているのだ。だからこそ、その束の間の幸福と快楽を森奈津子は味わい尽くす。彼女がせっかく差し出してくれた妄想の蜜を、だから私たちも余すところなく啜り尽くそう。