読了本ストッカー:海坂藩の<隠し剣>たち。……『隠し剣孤影抄』

隠し剣孤影抄 (文春文庫)


藤沢周平  文春文庫


2007/9/7読了。


<隠し剣>シリーズの1作目ですね。2作目の『隠し剣秋風抄』から先に読んでしまいましたが・・・。



「邪剣竜尾返し」
・・・檜山絃之助は雲弘流の剣士。ひょんなことから強敵と試合をしなくてはならなくなった絃之助は、父親が工夫したという秘剣<竜尾返し>を見いだそうとします。『海坂藩大全』によると、<海坂もの>の条件のひとつに<五間川>が出てくること、というのがあるそうです。本編もまさしく<海坂もの>ですね。


「臆病剣松風」
・・・瓜生新兵衛は鑑極流の秘伝<松風>を受けたほどの剣の達人らしいのですが、妻の満江にも疑われるくらいの臆病者。暴れ馬からはすっ飛んで逃げ、地震が起きるとうろたえて逃げ出す始末。そんな新兵衛に藩主右京大夫の嫡男・和泉守護衛の命が下されます。果たして新兵衛は和泉守を守りきれるのか?秘剣<松風>の発動する場面がかっこよすぎ。満江の心の動きも物語の陰影を深めます。


「暗殺剣虎ノ眼」
・・・組頭である牧与市右ェ門は藩主右京大夫の不興をかい<お闇討ち>にあい命を落とします。<お闇討ち>とは<藩主に私の憤りがつのり、耐え兼ねたときに遣うと申す。表には出せぬ上意討ち>・・・何やってんだ右京大夫~!その暗殺者が遣う秘剣が<虎ノ眼>。<お闇討ち>のためだけに存在し、<闇夜ニ剣ヲ振ルウコト白昼ノ如シ><暗夜ノ物ヲ見、星ヲ見、マタ物ヲ見ル>と伝えられる一子相伝の暗殺剣。一体誰が<虎ノ眼>を受け継いだ暗殺者なのか?与市右ェ門の息子、達之助は犯人を探りますが・・・。ラストが怖いです。


必死剣鳥刺し
・・・また右京大夫・・・ダメだな、右京大夫。お家騒動ばっかりじゃん!藩政に口を出し浪費を重ねる藩主右京大夫の愛妾を城中で刺殺し、逼塞した生活を送っていた兼見三左ェ門は三年後、突然右京大夫の近習頭取に取り立てられます。右京大夫の怒りは解けたのか?天心独名流の達人でもある三左ェ門は右京大夫護衛の任に就くのですが・・・。


「隠し剣鬼ノ爪」
・・・永瀬正敏主演の『隠し剣鬼の爪』の原作のひとつです。御旗組の片桐宗蔵は無外流の剣客。牢を破った罪人、狭間弥市郎への討手として選ばれます。宗蔵と弥市郎とは、かつて秘剣<鬼ノ爪>の伝授を巡る行き違いから疎遠になった同門です。宗蔵が受けた<鬼ノ爪>は屋内争闘のための短刀術に過ぎないのですが・・・。宗蔵と弥市郎との行き違いと弥市郎の妻の生き方が悲しい物語です。そういえば映画見てないなあ(後日見ました。いやあ面白かった!ただし映画の『蝉しぐれ』は最悪でした)。


「女人剣さざ波」
・・・ブサイク(失礼。)な妻、邦江に冷たく接してしまう浅見俊之助。藩の政争に巻き込まれて剣の達人と果たし合いをするはめになった俊之助を助ける<さざ波>の秘剣の遣い手とは?(ほぼネタバレ?)ま、この結末でもいいんですけど・・・おもんがあまりにも可哀想すぎませんか?


「悲運剣芦刈り」
・・・兄の病死により家督を嗣いだ曾根火玄次郎は、許嫁がいる身でありながら、寡婦となった嫂の卯女と関係を持ち続けています。タイトル通り、悲運です。


「宿命剣鬼走り」
・・・ラスト2編でものすごくおも~く終わらせますな・・・。それにしても、海坂藩は剣の達人がむちゃくちゃ多いな~。


藤沢周平面白かったです。唯一の伝奇ものらしい『闇の傀儡師』と『秘太刀馬の骨 (文春文庫)』を買うべし。