読了本ストッカー:メタな仕掛けにメタメタ……『猫の舌に釘をうて/三重露出』


2014/4/18読了。

二つの長編が収録されています。都筑道夫作品は『なめくじに聞いてみろ』と『退職刑事』シリーズを何冊かしか読んでなかったのですが、なんだか前から泡坂妻夫氏と混同してることに、いまさら気づきました……。
マジックのトリックなど「ザ・本格」なのが泡坂氏で、若干エロチックなのが都筑氏と理解していたつもりなのですが、泡坂氏にも『斜光』とかあるしね……。

◆「猫の舌に釘をうて」
……上手い! 手練れって感じです。
私はこの事件の犯人であり、探偵であり、そしてどうやら、被害者にもなりそうだ。
という書き出しを偽らない本格ミステリです。
淡路瑛一という推理作家、というか雑文家の男が、心理的殺人(?)を味わおうと、行きつけの喫茶店で隣の男のコーヒーにくすねてきた風邪薬をこっそり入れたところ、男が突然死んでしまったからさあ大変!
その風邪薬を飲むはずだったのは、淡路の想い人にして、友人塚本の妻、有紀子。有紀子を守らなくてはならない。自分の犯行を隠さなくてはならない。有紀子を殺そうとした犯人に気づかれたら、殺されるかもしれない!
つまり、「 私はこの事件の犯人であり、探偵であり、そしてどうやら、被害者にもなりそうだ。」というわけです。
淡路は推理作家ですから、たまたま手に入れていた都筑道夫の『猫の舌に釘をうて』という本の束見本(本の厚みはそのままで、中身が白紙の見本)に、自らの潔白を証明すべく事件のあらましを書いた手記が、この本という設定です。凝ってる!
だからこの本は、都筑道夫の『猫の舌に釘をうて』という装丁だけど、中身は淡路瑛一の書いたもの、というわけです。淡路は文中で都筑道夫というミステリ作家をクソミソに貶すのですが、それすら自嘲的ネタではなく、ちゃんと伏線になってるし!ラストは泡坂氏ばりの書物トリックが炸裂します!
ニコラス・ブレイクが) あみだした新手というのは、犯人の計画が情勢に対応して、物語の背後で変化するのを、うまくつかっていることだろう。最初の殺人で犯したミスのために、殺すつもりのなかったひとを、次つぎ殺さなければならなくなる、といったことなら、いくらも例のある手だが、ブレイクの場合は、最初の事件が起るまでに、犯人の気が変わったり、余儀ない事情が起こったりして、計画が変更される。それが作品にリアリティを増し、いっそうトリッキィにしているから、ユニークなのだ。つまり、それ以前の推理小説では、第一ページに死体がころがるか、ころがらないかは別として、すでに犯人の殺意は確立しているところから、物語がはじまる。犯意をいだくにいたるプロセスは、倒叙でしかあつかわれなかった。それを普通にあつかうか、すくなくともまだ計画があやふやなところから始めたら、いっそう複雑なものができるだろう、というところにブレイクの着眼があるわけだ。
このへんもすごい!

◆「三重露出」
……でた! 「ニンポー・オクトパス・ポット!」「イガ=ニンポー、ラフィング・ガス!」……山風か!?
忍術に憧れて、「ムシャシュギョー」のために戦後まもなくの東京にやってきたサミュエル・ライアン。彼はなんだかわけのわからん戦いに巻き込まれてしまい、プロフェッサー・モモチ直伝の役に立たないニンポーを駆使して戦う羽目に……。と思ったら、短編の最初に「日本版翻訳権所有」のページ(ハヤカワ文庫とか創元推理文庫とかの始めのページについてる、translated by とかってやつです)が挿入されており、この物語が、S・B・クランストンというアメリカの作家の『TRIPLE EXPOSURE(三重露出)』という長編を、滝口正雄という翻訳家が訳出したものらしい、ということがわかる仕掛け……またもやメタメタ。