読了本ストッカー:上品な極悪ホラー!……『20世紀の幽霊たち』



2012/5/15読了。

ご存知「ホラーの帝王」スティーヴン・キングの息子、ジョー・ヒルの傑作(と名高い)短編集。話題になりました。

◆「謝辞」……まさかの謝辞に短篇!「シェヘラザードのタイプライター」。ジェントル(?)ゴーストストーリーかな。

◆「年間ホラー傑作選」……『アメリカ年間ホラー傑作選』なるアンソロジーを編むエディ・キャロルのもとに、一冊の雑誌が送られてきます。
その掲載作、ピーター・キルルーという作者の短篇「ボタン・ボーイ」に魅せられたエディは、伝を辿ってようやく対面を果たしますが……。

◆「二十世紀の幽霊」……表題作(漢数字表記だが)。
映画館「ローズバッド」に現れる幽霊の名前はイモジェーン・ギルクリスト。映画上映中に、映画の話をしに突如出現する。

「邪魔しちゃってごめんなさい」女はささやいた。「でも、映画を見て胸がときめくと、人と話をせずにはいられなくて」

こわっ!暗闇の中で突然話しかけられたら……。
「ローズバッド」の経営者アレック・シェルドンは、「ローズバッド」がなくなってしまったら、イモジェーンはどうなってしまうのか、気にやんでいます。
そんな中、かつて「ローズバッド」でイモジェーンに会った一人の映画少年、今は大成し有名な映画監督となったスティーヴン・グリーンバーグから連絡がはいります。「ローズバッド」を、イモジェーンを守るため、映画館を買い取りたいというのでした。

◆「ポップ・アート」……クリストファー・ゴールデンが「序文」で大傑作と絶賛する短篇。

十二歳のとき、おれの一番の親友は空気で膨らませる人形だった。名前はアーサー・ロス。つまり、ヘブライ系の空気人形というわけだ。

という書き出し。まさかラブドール?と思いきや、どうやら本当に風船人間の話らしい……唖然。それがどうしたらこんなに切ない物語になるのか……(涙)

◆「蝗の歌をきくがよい」……でた!カフカ&「ザ・フライ」ですな。

◆「アブラハムの息子たち」……これすごい。途中まで全然気がつきませんでした……。
「序文」にもちらっと書いてあったのに。
ラストシーンで、途中に出てきた言い回しと同じ文章を使うところがむちゃくちゃ効果的!知識なしで読むほうが楽しめます。

◆「うちよりここのほうが」……なぜか突然ハートウォーミングストーリー(か?)。
純文学も志すジョー・ヒルらしい作品です。

◆「黒電話」……電話の何がこわいって、コードがつながってない電話が鳴っちゃうことでしょう(涙)。
ミステリなら黒電話にみせかけた携帯電話ってこともあるだろうけど。
誘拐されて閉じ込められた部屋に電話線が切られた黒電話が一台ある……なんだ、その絶望!

◆「挟殺」……ミステリ風味の短篇。
昔からどうも、「おれぁ犯人じゃねぇんだ、どうか信じてくだせぇ!」的シチュエーションが苦手で……。『霊名イザヤ』のトラウマだと思うんですが……(涙)。

◆「マント」……なんだかシェアワールドノベルの傑作『ワイルドカード』シリーズの一篇かなと思わせます。
マントというか毛布で飛ぶ男。ラストのぶったぎる感じも素敵。

◆「末期の吐息」……エドワード・ゴーリーの絵本みたい。
ドクター・アリンジャーは、世界最大規模の「末期の吐息コレクション」を誇る博物館で、観光客(?)を案内しています。
ある日家族づれが訪れ……。ちなみにポーの末期の吐息を聞くと、「ウイスキー」といってるそうです(笑)。

◆「死樹」……掌編。

◆「寡婦の朝食」……特に不思議なことは起こらないですが……。

◆「ボビー・コンロイ、死者の国より帰る」……本書の中では、記述師的ベスト2が本篇。
頭が割れてたり、耳がもげてたりする死人があふれる出足から、不穏な空気が流れますが……タイトルもタイトルだし(笑)。
でもこれいいなぁ! まさに「死者の国より帰る」お話。ラストの「みんなやりなおしたがっているんです」というセリフがまた……いい(笑)。

◆「おとうさんの仮面」……急に親戚の別荘に連れていかれることになってしまった少年。
両親は「トランプ人間に狙われているから」というのですが……。
むちゃくちゃ会話がしゃれています。こんなのを読むと、純文学と幻想文学の境目ってないような気がしますね。

◆「自発的入院」……記述師的本書のベスト1!
これはすごい……。主人公ノーランの弟モリスは、自閉症的傾向があると診断され、小さなときから地下室にダンボールその他を使って迷宮を作っています。まさかこんな結末とは……。しかもあの「大系」とはね!

◆「救われしもの」……まさかジーザス・クライスト的(?)事態が起きるのではと恐れおののきましたが……。

◆「黒電話[削除部分]」……前述の「黒電話」から削ぎ落とされた後日談を復活させたもの、だそうです。う~ん、なくてもよかったかなあ?

◆「収録作品についてのノート」……ちょっと裏話。

ぐちゃぐちゃぐっちょんちょんなホラーではなく、品があるというか……文学的というか……。比喩がとても秀逸で、素敵でした。