読了本ストッカー『翻訳のココロ』

翻訳のココロ (ポプラ文庫)翻訳のココロ (ポプラ文庫)
著者:鴻巣 友季子
販売元:ポプラ社
(2008-12-05)


2010/3/26読了。




<翻訳>という作業というか技術については、とても深い関心を持っていて、自分なりにいろいろ読んでみています。
(明治の作家内田)魯庵はほとんど廃人になりそうなくらいロシア文学に耽溺しており、実際、ドストエフスキーを読んでは憔悴して医者にかかっていたほどだが、一方で作品の美点弱点を冷静に見る目も失わなかった。
(中略)
重要なのは、魯庵が自分でダメだダメだとけなすところを、やっぱりダメなように訳している点だ。惚れこんでいるから堂々と欠点を指摘し、しかし訳者に徹しているから原文の「ありのまま」に添うことができた。だから、いくら読みにくくても人々に受け入れられたのだ。


つい先日、柴田元幸著『生半可な學者』を読み直していたら、名曲「私の青空」から、「狭いながらも楽しいわが家」という一節が引かれていた。ここは原文ではa little nestとか a cozy roomとなっていて、語義どおり訳せば「小さくて心地よいわが家」(こぢんまりした広さがちょうど良い)だけれど、訳詞家の堀内敬三はあえてここわ日本人の幸福感に寄り添った「狭いながらも楽しい」という表現―本当はもう少し広いと良いけど、ま、いっかという気持ちに置き換えたのである、と書かれていた。<>両文化の間にある誤差を折り込みずみで意訳したのだ。こうなってくると、翻訳の「ずらしワザ」としては、ものすごく高度でデリケートになってくるから、おいそれと手の出せる領域ではない。

などなど、ふか~いコトバが沢山でした。

『経験を盗め』 糸井重里他 中央公論新社
『タチアーナの源氏日記  紫式部と過ごした歳月』 タチアーナ・L・ソコロワ=デリューシナ TBSブリタニカ