読了本ストッカー『異星の客』

異星の客 (創元SF文庫)異星の客 (創元SF文庫)
著者:R.A.ハインライン
販売元:東京創元社
(1969-02)

2009/11/17読了。



ブラボー!ハインライン!そう申し上げたいと思います。
記述師はハインラインに対して、『宇宙の戦士』が超右寄りの作品だという程度の認識しかなかったので(『夏への扉』ももちろん未読ですし)、こういう作品も書いているとは知りませんでした。
本来はリベラルな作家なのかな?作品に現れる思想で作家を語るべきでは、もちろんありませんが。

記述師が本書を読んでみようと思ったのは、笠井潔氏がオールタイムベストSFの中で本書を挙げていたから。『賢者の石』もそれで読みましたし、『スカラムーシュ』も探書中です。

連邦の宇宙船チャンピオン号は、火星にて以前消息を絶った宇宙船エンヴォイ号を発見。さらに火星人と、彼らに育てられたエンヴォイ号の生き残り(というか火星で生まれた)、マイケル・ヴァレンタイン・スミスを発見します。
青年に成長していたマイケル(マイクと呼ばれます)は地球に連れて帰られます。
地球人でありながら、火星人の思考形態と特殊な(地球人からみたら)能力を持つマイケルは、当然のことながら地球に騒動を巻き起こします。
さらに、<ラーキン判決>と呼ばれる過去の判例から、火星の不動産すべて、両親の開発した宇宙船エンジンの特許権など、天文学的な額の遺産をたったひとりで相続することが判明。普通ならここで遺産をめぐる騒動を中心に話は進んで行くところですし、本書のあらすじはここまでを記したものが多いのですが……そうは問屋がハインライン。物語はここから強力な思弁SFへと突入していきます!

マイクはジュバル・ハーショーという酸いも甘いも噛み分けた、最強爺様を師として得ることで、地球人類について学んでいくのですが、例えば火星では、死んだ(<分裂した>と表現されます)仲間は美味しく頂くことが最高の敬意の表現でもあり、食べられることもまた最高の名誉。
しかし当然のことながら、地球上では<食人>は人類最大のタブーなわけで、ここを突き詰めただけで話がひとつできようというもの。
さらにセックス、婚姻、宗教などさまざまなことが、火星と地球の違いとして語られます。その上、マイクが宗教を興し、天界らしきものが現れる(もちろん天使が仕事してます!)に至っては……これSF?

とにもかくにも、イーガンの『ディアスポラ』並みに盛りだくさんな一冊なのでした。
さすがに古めかしい感じもありますが、人類の普遍的な問題を語っているがゆえに、今でも十分通用する傑作でした。

記述師が入手したのは創元推理文庫版でして……カバーをみると360円!105円で入手したのですが、今の新カバー版は1680円なんですね!なんだかかなり得した気分(貧乏性)。しかし……これはあまりといえばあまりなカバー。今のカバーは素敵なのにねぇ……。いろいろ差別語も続出なので、新訳で出してもいいかもしれないですね。