読了本ストッカー『一茶』

一茶 (文春文庫)一茶 (文春文庫)
著者:藤沢 周平
文藝春秋(2009-04-10)

 

2009/9/17読了。



信州から江戸に奉公に出た弥太郎、のちの一茶は、三笠付けという句合わせの博奕で頭角(?)を現し、葛飾派に属して活動をはじめます。
俳諧師というものは大変です。
お金が無くなるとパトロンたちのところへ何気なく訪ねていき、ご馳走になるなどしないといけません。俳諧を生業とするような人たちは、諦観していて、霞でも食って生きているような気がしていましたが、

 俳諧で高名をとり、世にもてはやされるためには、世間師というふうの世渡りの才覚がいるのでな。

この辺りを実に率直に書いています。
例えば、一茶の父親が病に倒れたとき、父親は一茶かわいさに、田畑屋敷の半分を遺してやろうとし、遺言状を作ります。そうなると納得いかないのが、なさぬ仲の義母と腹違いの弟。一茶がいなくなったあと、三人で必死に働いて、田畑を大きくしたのに、それを江戸で遊び暮らす(義母側の言い分ですが)息子が突然かっさらおうというのですから。

一茶を単なる<俳聖>として描くなら、「その遺言状を隠して、知らんぷりをし去る一茶」とでもするのがありがちだと思いますが、この一茶は、素直に「こんな遺言状があるんだけど……」と出してしまいます(史実ですけど)。そして十年近く粘りつづけて、遺産を勝ち取るのです。

一茶がそうまでするのは、将来に対する不安感。まさに現代的なテーマです。年を取って体が弱ってきて、それでも俳諧の旅に出なければ食っていけない。そんな重苦しい空気が全編に満ち溢れ、読んでいて苦しくなります。

まさに<ブラック周平>の面目躍如といった小説でした。