読了本ストッカー:SFスプラッタ……『複製症候群』

複製症候群 (講談社文庫)


西澤保彦


講談社文庫


2008/6/25読了。


 


ディアスポラ』はクローンなんて屁とも思わない感じ(言いすぎ)でしたが、本書ではアイデンティティ崩壊の危機が連発です。


西澤保彦氏のSFミステリは『七回死んだ男 (講談社文庫)』『人格転移の殺人 (講談社文庫)』に続けて3冊目。いや、今回もムチャです(笑)。


SF設定のキモは<ストロー>と呼ばれる物体。その名の通りストロー状の巨大な物体が10万本くらい地上に落下してくるところから物語は始まります。このストローに触れると、触れた人間のコピーが出来上がるわけ。その瞬間までの記憶を持って。<外側から触っても、内側から触っても、必ず内側にコピーは生まれる>というのがさらにポイント。この規制によってミステリ度が高まるわけです。


正直言って、記述師としては前掲2冊のほうが圧倒的に面白かったです。しかし、ストーリー開始時の主人公のメンタリティの有りようが何だか身につまされます。『人格転移の殺人』のときも海外に留学した日本人のタイプを冷静に分析していましたけど・・・。



   僕の両親は (中略) 何かといえば、自分たちはそれほど教育熱心なわけではない、息子の自主性を常に尊重しています、というポーズを取りたがる。対外的にも、そして息子である僕に対しても、だ。(中略) 心からそう思ってくれているのならば大変結構なことなんだけれど、腹の底では、兄みたいにすんなりと全国区的有名大学に入ってくれなきゃ自分たちのイメージが保てないと焦っているのが見えみえなんだよね。
   どういうわけか夫婦揃って、努力しないんだけれど優秀、というストーリーが大好きなのだ。学業にしろ仕事にしろ特にあくせく頑張っていないんだけれど自然体でなんでもこなせちゃう、みたいなイメージを保ちたがるし、また自分の息子たちにもそうあるよう望んでいる。


とか


   自分でも嫌になるんだけど、僕がまた、その両親の性格をもろに受け継いでいて、俺、努力なんかなーんにもしていないんだけど、才能で何でもスラスラできちゃうんだよなー、というのがカッコいいと思っているとくる。馬鹿だ、はっきり言って。


・・・なんてまさに記述師そのもの。いやだいやだ~。子育てに役立てようと誓ったのでした・・・。西澤氏の諸作は、その根底にある(と記述師が思っている)グロさが癖になるんです(表面的なスプラッタとかではなく)。そのスケベさというか、なにか(なにかわかんないんですけど)背負ってんじゃないかと思わせますよね。