読了本ストッカー:奇妙な短編満載です……『実験小説ぬ』

実験小説 ぬ


2006/11/20読了。


『ダブ(エ)ストン街道』が面白かった浅暮三文作品です。


 第一章 実験小説集
「帽子の男」・・・ご存知交通標識の帽子男(仮名)の人生を追う短編。オチもなかなかです。
「喇叭」・・・ある日加藤静夫のもとにクイズが送られてくる。ファンタジー風の物語と新宿区下落合の木造アパートの対比が面白いです。静夫は定年後の一人暮らしなのに細々した料理を作るところも好感度高し(内容に関係ないですが)。
「遠い」・・・山奥の村へ街頭販売に出かけた男が、山道で迷い矢印通りに進む話。こうして書くとなんじゃそりゃな設定ですが…。
「カヴス・カヴス」・・・“あなたは今、本を手にしたところ。”という文章から始まる、イタロ・カルヴィーノの『冬の夜ひとりの旅人が』のような物語。本の中と現実が混同していくお話はよくありますが、本書ではまさに融合していきます。ネバーエンディングな短編です。
「お薬師様」・・・“(2)へ”といった指示通りに読んでいくと物語が浮かび上がっていく短編。小さい頃読んだ、学年雑誌ふろくのゲームブックを思い出します。“お薬師様”がでてくる場面は、あっさりとした表現なのにゾッとさせられます・・・。
「雨」・・・初めてなんの仕掛けもない作品(笑)。ファンタジーというか、ホラーというか。
「線によるハムレット」・・・これは…知る人ぞ知る「10本アニメ~♪」か…(笑)。
「小さな三つの言葉」・・・「世にも奇妙な物語」で映像化されそうな短編です。バーテンダー役は藤村俊二氏で。樽の中で熟成していく愛…こわっ!
「壺売り玄蔵」・・・佐賀県の鬼子島で開かれる“日本未確認飛行物体実践応用化学協会特別講演佐賀県実地調査報告会”(怪しい・・・)。なぜ佐賀県・・・。その理由は・・・ザ○ン?オチも楽しい短編です(ちなみにザ○ンはオチではないです)。
「参」・・・これが一番好きです。しょっばなからまるで漢字字典のように難読漢字とコメントがえんえんと語られていきます。コメントから推測するに、どうやら何かの勝負が行われている様子・・・。コメントがエキサイトしていく様子が微笑ましいです(?)。


第二章 異色掌編集各編が短いため、解説すると中身を全部言っちゃうはめになってしまうので、タイトルのみ。「何かいる」「タイム・サービス」「再会」「隣町」「行列」「海驢の番」「貰ったけれど」「砂子」「ワシントンの桜」「ベートーベンは耳が遠い」「黄金の果実」「箴言」「生徒」「穴」「進めや進め」「カフカに捧ぐ」の16編。


 「カヴス・カヴス」のところで偉そうにカルヴィーノに言及しましたが、ポストモダン小説を噛み砕いて語らせたら右に出るものはいない、豊崎由美氏の解説によれば、カルヴィーノの作品+アルゼンチンの作家コルタサルの「夜、あおむけにされて」という傑作短編を土台にしているとのこと・・・偉そうに書いた自分が恥ずかしい~(涙)。
豊崎氏が書いているように 「つまり、浅暮三文は“よく読む者”なんでありましょう。よく読む者が、よく書く。そして、よく読む者は、よく真似をする。よく読む者は、程度の差こそあれ、皆ポストモダニストたらざるを得ない」 のですね。たくさん読まないといけませんね(そして幅広く)。