読了本ストッカー:甘やかな帰属意識にとらわれず……『ぐるりのこと』


2014/3/27読了。

旅に出かける、というのはその現実的な諸手続きの煩雑さと共に、私にとっては実に気の重いものである。たとえ人混みにあってもそこで行き交う言葉は母語ではないので、いつも「自分」という透明なカプセルの中にいるようだ。普段は外界に向けていればすむ集中力が、何をしていても自然に自分の内界に向いてしまう。そういう、いわば「考える人」モードに入ってしまうのだ。今回はトルコだったので、それが特に濃密だった(英語圏だと理解可能な単語の一つや二つは耳に入ってくるのだが、イスラーム圏だとそれが全くない。加えて文化的にも未知の部分が多すぎるので、「自分」の濃度が内側でどんどん上昇していってしまう)。
読んでいるうちに、どんどん泣きそうになる。その慎重な手つきに。
日本人であること、過剰な帰属意識、甘やかなそれに惹かれる気持ちを自覚しつ、屹立する梨木氏の立ち姿に。
短絡的に日本を礼讃し、他国を排除しようとする人たちがなんと薄っぺらいことか。
この本を読むだけで、自分たちが恥ずかしくて死にたくなると思うのだけど。
本書と『33個めの石』を読んで、常に自らを省みるよすがとしないと。。。

母性的なものに縁遠かった人間であっても、場合によって、人は――男性も女性も――意識的にでも、行きずりにでも、母性を振る舞うことは出来る。そして時にそれは人を救う。たとえそれが滅亡に至る道行きの途上であっても。