読了本ストッカー:SF入門者が読むべき短編集!……『シュレディンガーのチョコパフェ』



2013/3/28読了。

個人的には、日本で一番SF界を盛り上げる可能性をもつ作家として認定したい、山本弘氏の短編集です。
一昨年前くらいから、山本氏のブログをチェックしているのですが、震災のときも放射能に関するデマなども論理的に否定するその姿勢が素敵でした。


◆「シュレディンガーのチョコパフェ」
……タイムパラドクスを回避するのに便利な「多世界解釈」ですが、本編で採るのは「夢事象理論」。言ってみれば超強力な「人間原理」でしょうか。
たまたま今の宇宙に先進波がないため、時間に非可逆性が発生し、今のような安定した世界を形作っている、と。
その安定をぶっ壊す先進波放射アンテナを作り出したマッドサイエンティストが溝呂木隆一。おかげで世界は大混乱!
因果律の乱れまくった街中を、ガールフレンドを探して疾走する主人公ですが、地の文で彼女の名前が変化していくとこがツボでした(笑)。

◆「奥歯のスイッチを入れろ」
……いいタイトルだなあ~!
加速装置、奥歯のスイッチ、といえばご存知「サイボーグ009」。でも本当は『虎よ、虎よ!』のオマージュみたいですね(実は読んだことないのです~)。
加速装置をリアルに描くとどうなるか? これが本編です。
事故により両足切断などの重傷を負った宇宙パイロットのタクヤは、世界初のSSS(ソニック・スピード・ソルジャー)として生きる道を選びます。
音速加速中の戦闘では、銃声が遅れてやってくるとか、音の周波数も可聴域以下になってしまう(マイクの調整で聞こえるように設定されている)とか、重力の問題、摩擦係数の問題などなどいろいろシミュレーションされていて、面白かったです。さらになんといっても、ラストのタクヤの独白がかっこよすぎ! こういうところが山本氏の真骨頂なんだよなぁ!

◆「バイオシップ・ハンター」
……生きた宇宙船バイオシップの秘密を巡って、地球人の「クリフダイバー」と異星人「イ・ムロッフ族」たちの冒険を描きます。

◆「メデューサの呪文」
……記述師の大好物「言語SF」の傑作です。これはいろいろとオチに関わってくるので、あんまり解説ができない短編ですねぇ………。
アミノ酸の構成が違うため、異星の食糧が摂取できないのはもちろん、病気に感染することもなければ、感染させることもないってのは、おもしろかったです。

◆「まだ見ぬ冬の悲しみも」
……タイムパラドクスの問題に大きく切り込んだ短編。
救いのない結末なだけに、登場人物全員、読者が感情移入できないような嫌なキャラクターにしてあります。
というあとがきでしたが……余裕で主人公に感情移入できるんですが……やべ!

◆「七パーセントのテンムー」
……「テンムー」とは「天然無脳」の略(笑)。
でも内容は笑えない、差別SF(?)です。
人類に七パーセントの確率で存在するらしい「I因子欠落者」。彼らは他人の気持ちが理解できないなど、ネット上によく存在する痛い人たちを彷彿とさせる症状を示します。このあたり、山本氏が被ってきた被害が反映されたものではないかと。
自分もこういうところあるよな、とへこみます。

◆「闇からの衝動」
……ラストは趣向を変えてホラーです。クトゥルーものといえるでしょうか。

前述したように、山本弘氏と瀬名秀明氏のお二人の短編集は、SF初心者が真っ先に読むべきものではないか、と記述師は考えています。
いくらも読んでいるわけではないので、おこがましいっちゃあおこがましいのですが……。
でもイーガンやテッド・チャンの短編集とか、最強におもしろいけど、あまりにも最先端すぎるっつーか。
記述師のようにSFすきだけど、むちゃくちゃたくさん読んでるわけではない、という人間には、最適な作家だと思います。
過去の名作SFや特撮にオマージュを捧げている作品も面白いので、対象作品も読んでみたくなりますし!