読了本ストッカー:新たなる「山岡柳生」の発見!……『剣豪列伝#柳生一族』



2012/10/4読了。

縄田一男氏のブックガイドを続けて読んだので、ちょいと時代小説選を読みたくなりました。
ご存知柳生一族を題材とした短編のアンソロジーです。
白柳生、黒柳生、白宗矩、黒宗矩と入り乱れるので・・・混乱します(笑)。

◆「柳生五郎右衛門柴田錬三郎
……初っぱなはシバレン。主人公は石舟斎の四男、柳生五郎右衛門です。柳生の創始から順々に語られるので、巻頭にふさわしい一編です。

本編では、石舟斎の息子は長男・厳勝、次男・宗矩、三男十郎左衛門(宗章)、四男・五郎右衛門、となっているのですが、記述師のの記憶では、長男・厳勝、次男・久斎、三男・徳斎、四男・宗章(五郎右衛門)、五男・宗矩……なのですが……?
普通「五郎右衛門」って宗章だし、挿話も宗章のものだと。「次兄但馬守宗矩や、三兄の十郎左衛門宗章と、あやまって、伝えられた逸話がある」と書かれていますが。

◆「殺人鬼/五味康祐
……これは短編集『剣法秘伝』で読んだことがありました。黒柳生出た!

◆「柳生の宿/白井喬二
……白井喬二氏は、『富士に立つ影』を読もうと思っているのですが、う~ん、なんといったらいいのか……白黒以前に、「人間宗矩」って感じでしょうか?
まあそれはいいとして文体が若干苦手というか……ちょっと『富士に立つ影』集めるの迷うなぁ。
それとこのタイトル、ま、まさか「埴生の宿」と掛けてる……とか?

◆「砂塵/羽山信樹」
……縄田氏のブックガイドに頻出する羽山信樹氏、初めて読みます。
尾張柳生の始祖、兵庫助利厳が主人公。

◆「柳生連也斎/戸部新十郎
……全作集めてみようかと思ってる戸部新十郎氏の作品です。兵庫助利厳の息子、連也斎厳包が主人公。


◆「柳生友矩の歯/新宮正春」
……宗矩の次男・左門友矩が主人公。というか宗冬が主人公かな?

◆「柳生の金魚/山岡荘八
……これが一番驚きました。白柳生、黒柳生を超えた新しい(古いのか?)柳生です。
引き続き友矩が主人公の短編なのですが、家光の寵愛を受け、大名に列せられるという噂がたつところまでは、類書と一緒。
そのとき宗矩が怒る理由が、黒宗矩なら自らが大名になれないのに、息子がなることへの嫉妬、白柳生なら周囲へのはばかりなど、どちらにせよ、本当は宗矩自身大名になりたいのになれないというニュアンスがあったと思います。

しかし、本編の宗矩は

「その方、父が、どれほどご加増を嫌うて来たか、存じていよう。ご先代、ご当代と、幾度ご加増を仰せ出されても、宗矩はずっとこれを拒んで参った。父祖伝来の三千石を、権現さまに安堵されて以来、ご加増を堅くご辞退申し上げること三十二年……むろん、その間もに功がなかったわけでも、かくべつ貧乏が好きであったわけでもないぞ」

といいます。普通の白宗矩も言いそうなことですが、その場合「無私のご奉公」というニュアンスがなかったでしょうか?
しかし、山岡宗矩はその後が違います。

「柳生家は徳川家の家臣ではない。これに兵法を教えてゆく師家なのだ。師が弟子の家来になって教育が成ると思うか。人の師たる者は、師にふさわしい道を踏んで見せねばならぬ。それが、そなたの祖父石舟斎の忘却を許さぬぞと念を押して亡くなられた我が家の家風だ」

……おぉなんかスゲェ……家来じゃなかったんかい!
それだけに友矩は

「わしは……誰の子でもない! 柳生但馬守宗矩の子であった! 将軍家の師表となって、泰平の世に、人間の道をつけねばならぬと、鬼になっている柳生宗矩の子であった……嬉しい! 主膳どの、うれしいのだ、この友矩は……そして、それだけにまた、怖ろしい……」

と錯乱していきます。
逆に十兵衛は完全にその思想を自らのものとしています。

「実は、これから、この十兵衛のほんとうのご奉公がはじまるのだ。(中略)将軍家や徳川家などというものへのご奉公ではない。これは天下万民、草木もふくめた、もろもろの生き物もふくめた……天地のためのご奉公だ。(中略)何もおどろくことはない。これが柳生の家風なのだ。その家風がおぬしには呑み込めぬ。これは宗冬にも、まだ肚に落ちぬらしい。つまり、おぬし達は、やたらと徳川家の家来になりたがる。オヤジは、それが気に入らぬ」


なんだかデカい柳生でした。


◆「柳枝の剣/隆慶一郎
……これも既読。