読了本ストッカー『時の顔』

時の顔 (ハルキ文庫)時の顔 (ハルキ文庫)
著者:小松 左京
販売元:角川春樹事務所
(1998-12)


2009/11/28読了。



小松左京氏の数ある短編のうち、「時間」に関するものを集めた短編集です。日下三蔵氏によって編まれたもので、解説も氏の手によるもの。

◆「時の顔」……表題作。タイムトラベルSFです。時間移動が可能になった未来世紀。友人がのカズミが、過去に原因をもつらしい疾病を患ったことを知った主人公は、江戸時代にタイムトラベルし、その原因を探ります。記述師は知らないものが多かったのですが、いろいろな史実と絡ませ、タイムパラドックスもきちんと帳尻を合わせる筆致は、時間SFとしても、時間ミステリとしても、時代伝奇としても読めてさすが小松左京!と思わせます。

◆「御先祖様万歳」……これも時間SF。実家の蔵から、背景に山のトンネルから出てくる新幹線の写った、明治元年の写真を見つけた主人公が、その山で江戸末期に接続するタイムトンネルを発見し、大騒動が巻き起こるいう物語。打ってかわって、喜劇的な筆致です。『首都消失』の喜劇短編版、といったところでしょうか。

◆「地には平和を」……これも時間SF。というかアナザーワールドもの。太平洋戦争末期、無条件降伏せず、本土決戦の道を選んだもうひとつの日本の物語です。またまた暗い短編。タイムパラドックスについても、時間の可塑性を高く見積もった設定(重要人物を殺しても、別の人物が現れて歴史は継続されるといったような)なので、どうしてここまで歴史が変わってしまったのかというミステリとしても読めます。

◆「痩せがまんの系譜」……これは笑えます!よくこんなこと思い付くなあ……(感心)。読みはじめてすぐに「ド○え○ん」かと思いますが、「なぜ」というポイントがおもろい。「○ーミ○ー○ー」だったか。

◆「哲学者の小径」……ほぼ普通小説かな。青春時代を苦い思いで振りかえる、と。暗い、暗すぎる……。

◆「愚行の輪」……

◆「比丘尼の死」……タイトルと「時間」というテーマからすぐ分かるように、八百比丘尼の話。日本で「時間」といえば「八百比丘尼」、「八百比丘尼」といえば「時間」ですよね。義経やら光秀やらザクザク出てきます。『陰陽師』では「死ねない」→「殺して」ですが、本編では「生きていける」です。

◆「骨」……時間SFというか、幻想小説というかホラーというか。ポーの『早すぎた埋葬』(逆バージョンか?)でしょうか?

◆「お茶漬の味」……遠未来。ある恒星間航行用宇宙艇が、航海を終え太陽系外縁にたどり着きます。しかし、飛び交うのは誘導用ビーコンなどの人間にはあまり意味のないものばかり。人間からの通信や惑星間放送などはまったくありません。ウラシマ効果で100年が経っていますが、たった100年で人類は滅んでしまったのか?真実も面白いけど、「自律航行が可能な高性能宇宙艇になぜ人員が配置されているのか?」という命題の答え(というか事実というか)がさらに衝撃的!か、可哀想すぎる……。

◆「失われた結末」……若干メタ指向の短編。

◆「ホムンよ故郷を見よ」……地球でも繰り返されてきた、植民する側と既存の民族との対立と融和と差別と差異化と……その他もろもろを描く短編。文化人類学SFといったところでしょうか。SFとしたことで、ラストの衝撃はすごい!ミステリとしても読めます。


ということで面白かったです、かなり。小松左京作品は、短編をスルーしていたので、ハルキ文庫版を集めようかな?