読了本ストッカー『クジラを捕って、考えた』

クジラを捕って、考えた (徳間文庫)
著者:川端 裕人
販売元:徳間書店
(2004-10)


2010/2/3読了。

川端裕人氏の作品は、『夏のロケット』『The S.O.U.P.』『川の名前』を読了。本書で初めて、氏のノンフィクションに挑戦です。
記述師の世代だと、ギリギリ子どもの頃鯨肉を食べた、ような気がします。現在(本書の執筆当時です。2010年での状況は調べていません。あんまり変わっていないのではないかと思いますが)商業捕鯨は世界的に禁止されており、日本はIWC国際捕鯨委員会)の監視のもと、日本鯨類研究所を調査母体として<調査捕鯨>を行っています。
その目的は、<商業捕鯨再開に向けての調査>。著者の川端氏は、日本テレビ時代に取材として、半年間にも渡る南氷洋調査捕鯨に同行し、その様子をまとめたのが本書。

川端氏は捕鯨に携わる人々の置かれた微妙な立場をもとにしています。調査船団にも、科学者としての調査員と、商業捕鯨時代からの、捕鯨を<漁>として捉えている<鯨捕り>の人々がいて、微妙に考え方を異にしています。<鯨捕り>といえば、水産業界のスーパーエリートだった時代もあったようですが、現在では環境保護団体からは悪鬼の如く忌み嫌われ、日本国内では無関心にさらされています。

記述師の勝手な思いですが、何にも興味ない日本人で捕鯨に絶対反対という人はそういないのではないかと思います。どちらかというと、外国からの圧力で止めたと考えている人が多いんじゃないかなあ。少なくとも記述師は、「外国では、鯨は油を採ったら棄てていたけど、日本人は伝統的に肉からヒゲまでみな余さず使っていた」「外国は鯨(やイルカ)は頭がいいから食べるなと言うが、じゃあ牛は食べてもいいのか」という程度の認識(たぶん祖父あたりの受け売り)でした。

川端氏は、いろいろな意見をあらかたまんべんなく提示していますが、最終的には、商業捕鯨の再開は現実的ではないと述べています。その一方で、環境保護と動物愛護を混同しているような感情的な反捕鯨論もまた、<比較的裕福な都市生活者>の<世界最大のローカル文化>に過ぎないとしています。
そして環境税などを提案しています。たしかにこの辺が現実的な落としどころではないかと。

もちろんこの本だけでは結論はでませんが、まず専門書なんかを手にとる前にいい本です。