読了本ストッカー『法月綸太郎の本格ミステリ・アンソロジー』

法月綸太郎の本格ミステリ・アンソロジー (角川文庫)法月綸太郎の本格ミステリ・アンソロジー (角川文庫)
著者:法月 綸太郎
角川書店(2005-10-25)


2009/12/14読了。




出張先で持参した文庫を読み終わってしまいそうだったので(なんたる不覚!)、急遽購入。367円でした。
有栖川有栖本格ミステリ・ライブラリー』『北村薫本格ミステリ・ライブラリー』に続く第三弾。『有栖川有栖の鉄道ミステリ・ライブラリー』を先に読んでしまったわけですが。

<眉につばをつけま章>
 ◆「ミスター・ビッグ/ウディ・アレン」……なんか読んだことある……と思ったら、『これでおあいこ』に収録されてましたね。ラストは憶えてなかったけれど。神を探して欲しいと頼まれた探偵の話です。続編の「コールガール組織を追え」も読んだことがあるはずなんだけど……これまた憶えてないなあ(涙)。

◆「はかりごと/小泉八雲」……初小泉八雲です。このアンソロジーシリーズは、編者の懐の深さもあって、いつも幅広い収録作選定に感心します。怪談がホラーになるかミステリになるかは紙一重だと思いますが、怪談を怪談として受け入れつつ、ミステリとしても成り立たせるなんて、もちろん小泉八雲は意識してたわけじゃないので、法月氏のポイントでしょうか。

◆「動機/ロナルド・A・ノックス」……ノックスは『陸橋殺人事件』を読んでいる、はずです。なるほど確かに<異様な犯行動機>だ。

 ◆「第一の栞・ハードボイルドなんか怖くない」……『デイン家の呪』D・ハメットが面白そう。<ディクスン・カーばりの怪奇現象が炸裂><小栗虫太郎みたいなトリック><もうほとんど高木彬光のノリ>なんて!

<密室殺人なぜで章>
◆「消えた美人スター/C・デイリー・キング」……記述師探求書リストに『タラント氏の事件簿』は載っていたはず。

動機?どうして動機などぼくに分かるかね?(中略)とにかく、動機はいくらでも見つけることができるだろう。しかし、動機は問題の中に入らない。というのは、ぼくたちには、動機に関する情報が、まったく手に入っていないからね。だから、問題はあくまでも、純粋にメカニカルな点に限る。

なんて、遅れてきたミステリファンには森博嗣氏に見えますが、当然先駆けがたくさんあったわけですよね。

 ◆「密室 もうひとつのフェントン・ワース・ミステリー/ジョン・スラデック」……ちょっとメタ風味。ま、ようわからんが。

 ◆「白い殉教者/西村京太郎」……西村京太郎氏の作品は本格マインド溢れる(たぶん)機関車が消える作品(タイトル度忘れ)を読んだことがあります。あと『名探偵が多すぎる』も西村氏の作品でしたっけ? 徳大寺京介を探偵役に据えた、ですます調の本格ミステリです。

 ◆「第二の栞・窮すれば通ず―密室短編ベスト3」
月氏が挙げている三作品のとも読んだことないです、多分。

 <真犯人はきみで章>
◆「ニック・ザ・ナイフ」……論創社から二冊ほどクイーンのラジオドラマ集が出されていましたが、本編はその先駆けですね。いや、まじて上手い。記述師はコロッと騙されました(笑……っていいのか?)。

◆「誰がベイカーを殺したか?/エドマンド・クリスピン&ジェフリー・ブッシュ」……こ、これは(笑)。かの「ピザって十回言って?」(小学生のときむちゃくちゃ流行ったな)に匹敵する凄まじさ!アルビノも伏線だったか!ま、一発ものですが。

◆「ひとりじゃ死ねない/中西智明」……本書の一番の収穫は中西智明氏を知ったことです、本当に。まさに「してやられた!」と思いました。というか、電車の中で「うぉ?」って言っちゃいました(笑)。これはねぇ……脱帽です。軽いジャブ伏線に気づかせておいて、その背後にという凄まじい短編でした。『消失!』をなんとしても探さねば!

『消失!』 中西智明 講談社文庫

 ◆「第三の栞・海外クラシック・ベスト20」……
 『トレント最後の事件』 E・C・ベントリー 創元推理文庫
『八点鐘』 モーリス・ルブラン 新潮文庫
『ナイン・テイラーズ』 ドロシー・L・セイヤーズ 創元推理文庫
野獣死すべし』 ニコラス・ブレイク ハヤカワ文庫HM
『赤い右手』 J・T・ロジャーズ 国書刊行会
『自宅にて急逝』 クリスチアナ・ブランド 早川書房

 <おわかれしま章>
 ◆「脱出経路/レジナルド・ヒル」……レジナルド・ヒルは、森博嗣氏が推薦していた『マハラジャー殺し』を読もうと思っていたんですが、シリーズものの一冊だと知って躊躇している作家の一人なのでした。こういった心理サスペンススタイルのミステリの場合、どこまでひっくり返すか、つまりAとBという登場人物のうちどちらを上手に設定するか(原理的には、AをBが騙していたと見せかけて、いやいやBよ、実はAが一枚上手だったのだ、いやいや、Bはさらに一枚上手だったのだ……と永遠に続きますからね)でずいぶん印象が違ってくるはずですが、本編はギリギリよくできていると感じました。

 ◆「偽患者の経歴/大平健」……法月氏らしいセレクトという感じ。ミステリではなく、聖路加国際病院の精神科部長である大平健氏によるノンフィクションです。まさにリアル<信頼できない語り手>!
本編の場合、<語り手>である大平氏は信頼できるので、若干意味はことなりますが。また大平氏の筆が上手なので、フィクションと言われてもまったく気がつかないと思います。

 ◆「死とコンパス/ホルヘ・ルイス・ボルヘス」……ラストはボルヘス。『ミスタービッグ』と対をなすようにインテリチックな一作。『伝奇集』は意外と105円では見つからないんですよねぇ。法月氏は衝撃的な作品であると書いていますが、<衝撃>がどこを指すのか知りたい記述師なのでした。ラストの探偵役の運命が<衝撃的>なのか、それとも、記述師では気がつけなかった<衝撃的>ななにかが書かれていたのか?だとしてもまったくわからんが(涙)。