読了本ストッカー『第三の男』

第三の男 (ハヤカワepi文庫)第三の男 (ハヤカワepi文庫)
著者:グレアム グリーン
早川書房(2001-05)

2009/10/7読了。

 

 

 

相変わらずシックなカバーが素敵な<グレアム・グリーン・セレクション>。あれ? 記述師が持っているものと表紙が違いますな? 谷山彩子=イラストの素敵なカバーなのですが。

ヒューマン・ファクター』に続いて(続いて、って言ってもずいぶん間が空きましたが)2作品目。

映画『第三の男』の原作であり、ノベライズであり……『2001年宇宙の旅』みたいなもんか。

特筆すべきは(記述師的には)、その人称。

いつ何事が起こるか、わかったものではない。私がロロ・マーティンズに最初会った時に、私は保安警察簿に彼のことをこんなふうに書いておいた。

と始まります。当然<私>が、ロロ・マーティンズという人物を<彼>と呼ぶ一人称なのですが、

次に起こったことは、ペインの報告からではなくて、ずっとあとになってマーティンズから聞いたことである。
(中略)
「お客様はデクスター様かと思っておりましたが、デクスター様なら一週間のご予約でございます」
「ああ、ぼくはデクスターです」とマーティンズは言った。あとになって私に話したのだが、彼はライムがその名前で予約しておいてくれたのかもしれないと思った。

このように、三人称視点の一人称……とでも言うのでしょうか?
表面的な視点人物は、主人公(多分)のロロ・マーティンズなのです警察官である<私>が取り調べで聞き取った、という体裁を採っているため、不思議なニュアンスになっています。
森博嗣氏の<Vシリーズ>みたいなもんか?
こうすることで、一人称での<視点人物が知らないこと、経験してないことは記述出来ない>という縛りをなくすことができています(ひとつの方法として)。
しかも妙に距離をとったハードボイルド感がそそります。
ロロ・マーティンズの一人称にしたら、甘くなりますね、きっと。

グレアム・グリーンの本では初めてぐっときました(笑)