読了本ストッカー『ルピナス探偵団の当惑』

ルピナス探偵団の当惑 (創元推理文庫)ルピナス探偵団の当惑 (創元推理文庫)
著者:津原 泰水
東京創元社(2007-06)







2009/9/7読了。

<貪欲>そして<空想>を花言葉にもつ「ルピナス」をその名に冠した、私立ルピナス学園に通う吾魚彩子、桐江泉、京野摩耶の三人組と、博覧強記の同級生にして化石オタク祀島龍彦を主人公としたミステリ短編集です。

 ◆「冷えたピザはいかが」
……私立ルピナス学園に通う三人組(+1)が、警官である彩子の姉に頼まれて、事件を解決に導きます。犀川先生みたいな祀島くんが素敵(笑)。

「吾魚さんは、比較的すぐに憶えられたけどね。耳の形が綺麗だなあと思って(中略)とてもアンモナイト的というか、驚いたことにアンモナイトの隔壁そっくりの線まであるんだよね。自分で気づいてた?」

化石オタクのくせにやるな、オヌシ。犯人に対しても(2行目で明かしてるから構わないと思うけど一応伏せ字)

「残念だけど、もう会えないかも。都化研(引用者註:都市化石研究会)の人たちにも。どうかよろしく伝えといて」
「なんで?」と彼は訊ね返した。「松本さんも久世さんも謎の老人も、それに僕も、何年でも何十年でも続けるつもりですよ、街に化石って無数にあるんだから。またいつでも来てください。歓迎します」
●●さんは咳きこみ、口許を押さえた。「むせた」

 ◆「ようこそ雪の館へ」
……ミステリの定番シチュエーション<雪の中の館>もの。

 ◆「大女優の右手」
……三編目は最近書かれたようで、三人組のキャラが抜群にたってきて、読み応えさらにアップ、です。
舞台上で突然死した、往年の名女優、野原鹿子。その遺体は一時消え失せ、再び発見されたときは右手が切り落とされていた……という猟奇事件。
本編では、祀島くんが探偵役を勤め、彩子は影をひそめたかのよう。しかし、最後はやはり彩子が締めます。いや……これ傑作だよな。

巻末解説で、評者の神保泉氏も書かれていますが、

  津原泰水はキャラクター造形に秀でた作家である。(中略)彼女たちは、小説世界の外でもそこと同じように生活しており、ときおり津原泰水という小説家の手を借りて、わたしたちの前に現れてくるように思われる。(中略)たぶん<ルピナス探偵団>の犯人たちも同様だろう。彼らは生きている。

犯人たちもこれで終わりじゃなく、またこれからも生きていかなきゃならない、という未来がある終わり方です。ここが津原泰水氏の魅力かな。

とはいえ、氏の作品はこれが初めて。続編は当然買う(文庫化されたら)として……『蘆屋家の崩壊』や『少年トレチア』なんかも、何度も見つけたし、探求書リストにも載ってるんですけどスルーしてました。やはりミステリとかSFとかいう看板ジャンルが曖昧(かどうかはわかりませんが)な作家は、記述師のようなあまり冒険をしない読者には取っ付きにくいですよね~。