夜の姉妹団―とびきりの現代英米小説14篇 (朝日文庫)
販売元:朝日新聞社
発売日:2001-05
2009/5/11読了。
◆「夜の姉妹団/スティーヴン・ミルハウザー」
……思春期の少女たちが集う(と思われる)秘密結社(と言われる)<夜の姉妹団>。少女たちは夜な夜な集い、一体何をしているのか?父親たちはいかがわしいことが行われているのではないかと邪推し、問われても何も答えない娘たちと静かに対立を深めます。
◆「結婚の悦び/レベッカ・ブラウン」
……なんだかわけわからないような、わかったような小説です。新婚旅行先なのにどんどん訪問客が殖えていくという、ファンタジー?
◆「境界線の向こう側/ミハイル・ヨッセル」
……なんともいえない。
僕はそれを読んで、とても感動した。こういう物語は書かれるものではない。それは生きられるものだ。実人生というのはしばしば、文学作品以上に文学的である。なぜなら実人生は、信憑性なんか持つ必要がないからだ。わが祖父母の人生を見るがいい。彼らはともによき人生を送った。それがよき人生だったのは、ひとえにそれがともに生きられたものだったからだ。それはひどく苛酷な、何百万というソ連国民の生活と変わらない暮らしだった。そして祖母は、夫の眠る墓の上で心臓発作を起こして息絶えた。シリアスな小説ではそういうことは絶対に起こらない。
◆「僕たちはしなかった/スチュアート・ダイベック」
……スチュアート・ダイベックってこんな感じなのかあ、想像していたのと全然違うなあ。
◆「古代の遺物/ジョン・クロウリー」
……ようやく記述師好みの短編がやってまいりました!ブラッドベリの<夜の一族>シリーズのような物語です。
時はヴィクトリア王朝時代(よくわからないけど訳者解説にそう書いてあるので)、語り手の<私>がサー・ジェフリーからチェシャーでの<不倫疫病>についての話を聞きます。クロウリー噂に聞いちゃいたが面白いです!『エンジンサマー』も買わないとなぁ。
◆「シャボン玉の幾何学と叶わぬ恋/レベッカ・ゴールドスタイン」
……おぉ!これも面白い!サーシャ、クローイ、フィービーという親娘三代の物語。伝統から逸脱して情熱的に生きてきたサーシャ、幼い頃からナイフやフォークを人形に見立てて物語を紡ぎ、長じてはバーナード大学古典文学科の教師となった娘のクローイ、文学にはまったく興味を示さず、シャボン玉の幾何学専門(?)の数学者となった、さらにその娘のフィービー。かなり笑えます。
サーシャにしてみれば、ギリシャ語を学ぶなんて考えも及ばない。というか実は、十五分間じっくり考えて、やめにした。代わりに、クローイからラテン語を教わることにした。レッスンはさして進まずに終わってしまった。あまりの規則の多さゆえに、サーシャはいくらも経たぬうちにしかめっ面をしはじめる。ある日、クローイは彼女めがけて本をもろに投げつけた。
「規則!規則!何だって言葉にそんなにたくさん規則が要るのかね!」とラテン語のミサイルをよけながらサーシャは叫んだ。
「イデッシュ語にだって規則はあるのよ、サーシャ!」
「どこに?あるなら見せておくれ!あたしは見たことないよ、ひとっつも!」
これは他の本も読みたいと思って検索しましたが邦訳はひとっつもない模様。うぅ……生殺しじゃ。巻末の解説によると
レベッカ・ゴールドスタインは『光の諸特性-愛、裏切り、量子物理学の小説』という、いかにもこの人らしい題の、量子力学と相対性理論の両立をめざす物理学者たちをめぐる、ラブストーリーも絡んでいる、と内容もやはりこの人らしい長編を発表した。
と書いてあります。うぅ……面白そうだ……(涙)。
◆「アート・オブ・ベースボール/ドナルド・バーセルミ」
……まさに<芸術と野球の魔術的合体>。文学的素養がないのでなんのことやらわかりませんが(笑)。
「ドナルド・バーセルミの美味しいホームメード・スープ/ドナルド・バーセルミ」……よくわからん。
「コーネル/ドナルド・バーセルミ」……これもよくわからん。
◆「いつかそのうち/ジェームズ・パーディ」……
◆「ジョン・フォードの『あわれ彼女は娼婦』アンジェラ・カーター」
……解説がなきゃ全然わからなかった……16世紀イギリスの劇作家ジョン・フォードの代表作『あわれ彼女は娼婦』を20世紀アメリカの映画監督ジョン・フォードが撮ったらどうなるか?という作品だそうです。なんとも言えないけど。原作を知らないので。
……これも解説がなかったら何もわかりませんな!ボルヘスの短編「南部」の結末に迫った(パロった?)短編だそうです。これも原作を読んでないのでなんとも言えません。面白いけれど。作家がボルヘスの短編の主人公に結末を聞きに、物語の中にいくのですが、
「何か用かね?」とフロントの骸骨が言った。
(中略)
「セニョール・ダールマンっていう人がここに泊まっていませんか?」と私は訊ねた。
安物の匂いのする大きな煙を、骸骨はふうっと吹き出した。口から煙が出てくる様子は普通と変わらない。「いないね」
「調べてもいないじゃないか」
「その必要はないさ」。彼はウィスキーを注いで、グラスを持ち上げた。「君の瞳に乾杯」
かつて彼の目があったであろう空洞を、私はまじまじと眺めた。そこに浮かぶ影に敵意は感じられない。ウィスキーはあごのうしろに流れ出たりはせず、あっさり消滅した。私がぽかんと見とれていることに気づいて、骸骨は言った。
「俺が舌なしで喋れるところまでは平気だったけど、喉なしで飲めるってのはあんまりだってわけかね?」
「そんなことはありません」と私は嘘をついた。
かっこいい……(笑)。
原題は“THE MAN WITH THE DAGGER”。あいくちだとなんだか日本のヤクザみたいなのでダガーでいいんじゃないかなあ。
◆「ラベル/ルイ・ド・ベルニエール」
……山田雅也氏の『マニアックス』に出てきそうな物語です。キャットフードのラベル収集にとりつかれた主人公。借金取り立て人として働いてたのに、困窮し逆に借金を取り立てられる羽目に。電気もガスも電話も止まり、食べるものにも困った主人公はついに……そりゃ食べますわな~!
……これも面白い!母の死に悲しいような解放されたような、複雑な思いを感じていた主人公。なのに当の母親はロンドンの郊外で普通に暮らしていた(生き返って)という爆笑ストーリー。この人も他の訳が出ていないみたいなんだよなぁ。
私にとって解せないのは、母が死後の生を生きているという事実自体よりも、むしろそれについて母がまるっきり当たり前のような顔をしていることだった。
フラットに入っていこうとすると、玄関の呼び鈴の下に母の名が書いてあるのが目に入った。なぜかそのことに私はショックを受けた。私としては何となく、母はお忍びで暮らすべきだという気がしたのである。死後の生を生きているだけでも十分不気味なのだ。三文新聞に知られたらどうする?気まずい醜聞にだってなりかねない。
レベッカ・ゴールドスタインが一番の収穫!! なんかなんでもいいから訳されないかなぁ。