読了本ストッカー:図像学ミステリ……『殉教カテリナ車輪』

殉教カテリナ車輪 (創元推理文庫)殉教カテリナ車輪 (創元推理文庫)
著者:飛鳥部 勝則
販売元:東京創元社
発売日:2001-07


 


 


2008/12/25読了。


2008年ラストの読了本は本書でした。第9回鮎川哲也賞受賞作品です。


飛鳥部勝則氏作品は初ですね。美術館の学芸員矢部直樹は、妻に似た女性の絵を描いた東条寺桂という画家について調べ始めます。



  図像解釈学を古典絵画ならともかく、現代の日本の絵画で図像解釈をするのは、実は空しい作業だ。


  自分は何かを明らかにし得たのだろうか。確かに『車輪』と『殉教』について考えてはみた。しかし解明したなどとはとてもいえない。絵のリーディングには常にこの種の空しさがつきまとう。
  西洋の古典絵画を研究している時でさえ、この感じはあった。いや一層強かったとさえいえる。特に十六世紀前後の絵画は「意味」の「迷宮」である。調べられば調べるほど謎が深まっていく。それでも西洋絵画の場合には手掛かりがあった。時代の背骨のような宗教、思想、社会情勢があった。積み重ねられた文化、伝統もあったのである。
  日本洋画はその点で非常に淋しい。まるで切り花のようである。美しいものもある。良いものもある。しかし根っこのない、哀れな植物だ。従ってイコノグラフィー的あるいはイコノロジー的見方で現代日本洋画を見るのは、実に空しい作業なのだ。


た、確かに。でもその牽強付会的なところが、本格ミステリと相性がよいですよね。かなり暗~くなるストーリーですが。作中に登場する絵を作者自身が実際に描いているというのも、すごい話だ。


本筋とはまったく関係ないのですが、<憂鬱質(メランコリー)>って純粋に精神的なものかと思っていたけれど、五大や五輪みたいなものなんですね。
<四性論>において、<空気・火・水・土>に対応するものが、それぞれ<血液・黄胆汁・粘液・黒胆汁>、<多血質・黄胆汁質・粘液質・憂鬱質>だったとは。