読了本ストッカー:国産ハードハードハードSF……『ウロボロスの波動』

ウロボロスの波動 (ハヤカワ文庫 JA)ウロボロスの波動 (ハヤカワ文庫 JA)
著者:林 譲治
販売元:早川書房
発売日:2005-09-22


 


 


2008/12/4読了。


林譲治氏の作品は『記憶汚染』『侵略者の平和』『暗黒太陽の目覚め』『大赤斑追撃』を読んでいます。結構読んでるな……。特に『侵略者の平和』や『暗黒太陽の目覚め』は、科学技術や言語が社会体制や組織に及ぼした影響が詳細にシュミレートされていて、非常に刺激的な作品でした。本書は、連作短編集になります。



◆「ウロボロスの波動」
……時代は西暦2123年。西暦2100年に、地球から数十天文単位の空間で発見されたブラックホール<カーリー>。人工降着円盤開発事業団AADDによって、<カーリー>を取り巻く形で置かれた、直径4050キロの巨大環状構造物<ウロボロス>を舞台に話は始まります。ウェアラブルコンピュータネットワークや、モジュール式組織など、おぉ林SF!なガジェットが盛りだくさんです。AIの論理と人間の論理の違いなども、面白くよめました。


◆「小惑星ラプシヌプルクルの謎」
……時代は飛んで西暦2144年。軌道傾斜角が太陽系に対して垂直なため、人工降着円盤からのエネルギー転送アンテナとして改造された小惑星<ラプシヌプルクル>が、なぜか異常な回転を始めてしまいます。


◆「ヒドラ氷穴」
……『暗黒太陽の目覚め』などでもテーマとなった、というか未来SFの定番テーマ、<新興の組織vs旧弊な組織の対立>が前面に出た短編。時代は西暦2145年。AADD総裁落合哲也暗殺計画を進める、地球側テロリスト<ラミア>と、AADDガーディアンの知恵比べを描きます。トップのテロリストとしては若干行き当たりばったり的な計画ではないかい?とも思いますが(笑)。


◆「エウロパの龍」
……エウロパといえば地球外生命体。地球外生命体といえばエウロパ(そんなことない?)。ついにエウロパでのファーストコンタクトものです。時は西暦2149年。人工降着円盤の試験運用により、エウロパの氷原に穴が穿たれます。その穴から生命体探査のために潜行した潜水艇<ソードフィッシュ>が遭難。最後の通信は「龍に追われている」。果たしてエウロパには知的生命体が存在するのか?


◆「エインガナの声」
……時は西暦2163年。地球とAADDとの合同プロジェクトが始動。しかし通信途絶の中、地球側とAADD側との軋轢がぐんぐん高まり……。その中で超然としているアトウッド博士のキャラが面白いです。あとブラックホールのみで構成された銀河ってのも奇想ですねぇ。


◆「キャリバンの翼」
……これまでの短編がいろいろと収斂されていきます。すべての主題は<意識>というものに集約されていくようです。AADDの人間の意識、地球人の意識、AIの意識、地球外生命体の意識、果たして<意識>とはなんなのか?それは存在するのか?相互理解は可能なのか?


本書では、2123年から2171年までの時期が描かれますが、2123年にはすでに外惑星近傍で巨大建造物を建造する技術力を持っているのに、ようやくラストで有人恒星間宇宙船が建造されるってのが、なんだか妙にリアル。本書のみでも楽しめますが、持ち越されている謎も多くあるので、次回作『ストリンガーの沈黙 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)』も文庫化待ちです。