読了本ストッカー:記述師的ファンタジーの最高峰……『黎明の王 白昼の女王』

黎明の王 白昼の女王 (ハヤカワ文庫FT)


イアン・マクドナルド


ハヤカワ文庫


2008/8/5読了。


読みはじめたとたん、これ、すごいの読んじゃったな・・・とわかる凄まじい出来。むちゃくちゃ記述師のストライクゾーンです。


第一部は、複数の人物の日記や書簡のかたちで綴られます。主な書き手は、アイルランド・クレイグダラホに住むエドワード・ギャレット・デズモンド博士と妻キャロライン、そして娘のエミリー。


デズモンド博士はアルタイル方面から飛来する<ベル彗星>が、自然現象としては説明不可能な光度の変動を示していることを発見。その変動を人工的な加減速によるものとみた博士は、星間移動機が飛来していると確信。海上に八キロに及ぶ通信機を浮かべる<浮標計画>をぶちあげます。


それと平行して、娘のエミリーはアイルランドの森でさまざまな妖精、古の神々に出会い、魅入られていきます。エミリーが綴る異界と現世の関わりの解説が非常に魅力的。


なぜ<異界が常に地球の事物――窪地や地下世界――と関連している>のか、<超自然的現象が、春分秋分夏至冬至と関連している>のはなぜか、そして<魔法の仕組みに対する説明>まで、よくファンタジーではあるような説明なのだけれど、(地と海の間にあるバイストン=ウェルのような)なぜこんなにすんなり納得できるのか?


クトゥルー神話事典』で東雅夫氏が次のように書かれていました。



    たとえば、英語でおなじみの固有名詞を強引に日本語化したような、見るからに怪しげな語感の地名を作中に導入したり、日本の地方都市の民家の棚に『ネクロノミコン』や『無名祭祀記』を鎮座させたりするためには、それに先立って読者に違和感を抱かせないだけの入念な伏線、巧みな雰囲気醸成といった手順が不可欠である、ということです。


引用文は日本の作家に冠しても文章ですが、本書はその<手続き>を徹底的に踏んでいます。だからこそこんなにすごい出来なんだろうなあ。


それにしてもすごい振り幅。第二部はもろファンタジーです。しかし第二部が終わったときには、え?これで終わりじゃないの?まだ続くんだ!と嬉しくなりました。普通の小説なら、こんだけ盛り上がったら終わっちゃうでしょ(笑)。


第三部は、コンピュータに接続された日本刀を持って戦う女性?・・・いやすごいわ。日本刀持って戦う女性が出てきても、第一部、第二部の積み重ねがあるから、全然違和感がありません。


五つ星!