読了本ストッカー:暗号冒険小説!……『暗号機エニグマへの挑戦』

暗号機エニグマへの挑戦


ロバート・ハリス


新潮文庫


2007/11/19 読了。


オリジナルタイトルは"ENIGMA"。そのままにしとけばいいものを・・・こんな邦題にしたことで、なんだかプロジェクトX的な印象になってしまいました。とはいっても、中身もわりとプロジェクトX! ドイツの暗号作成機<エニグマ>を使って作られた暗号、通称<サメ>を解読しようと不眠不休で(ほんとに)働く人間たちの物語です。


舞台は第二次世界大戦中のイギリスの暗号解読施設ブレッチレー・パーク。トム・ジェリコケンブリッジ大学数学科に主席で入学した俊英で、現在はブレッチレー・パークで暗号解析係として働いています。ジェリコはかのチューリングとも親交があるという設定!
イギリスによる暗号解読作戦と、ブレッチレー・パーク内の職員失踪事件が平行して語られます。そしてある史実に基づく事件も・・・。


こういった戦争サイドストーリーによく出てくる、<仕事(興味)VS倫理観>という図式が、本書にも顔を出します。



いずれにせよ、純正数学が戦争に役立つかもしれない用途がひとつだけある。世界が狂気に陥ったとき、数学者は数学のなかに効果抜群の鎮痛剤を見出すことができる。それというのも、あらゆる芸術や学問のなかで、数学はもっとも世界と縁遠いものだからである。<『一数学者の弁明』G・H・ハーディ>


<サメ>を解読するために、味方の船団を見殺しにし、大量虐殺が行われるのを見過ごさなければならなくなった場面では・・・



エニグマの黄金律であり、その唯一の致命的な欠陥でもある「ある文字が同じ文字に変換されることはぜったいにない(中略)」という法則は、いまでも有効なのだ。
ジェリコの足がデスクの下で喜びのタップ・ダンスを踊った。
顔を上げると、バクスターが彼の顔を見つめており、バクスターのその顔には、おぞましいことに、微笑が浮かんでいた。
「うれしいのか?」
「むろんうれしくなんかないさ」
だかそのとあまり恥ずかしい思いをしたために・・・


もちろん答えは出ません。物語の中でもある登場人物が・・・



「・・・つまり彼の質問の前提を否定するわけだ。われわれに道徳的選択をする責任があるという前提を否定するんだ。以上で証明終わり」


と発言して議論は打ち切られます。トム・クランシー的というか、結果論的結論ではありますが。


ロバート・ハリス作品は初めてですが、訳者あとがきを読む限りでは『ファーザーランド(文春文庫)』が面白そうな予感。第二次世界大戦にドイツが勝利した未来世界を描くということなので、レン・デイトンの『SS-GBSS‐GB〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)』みたいな(探し中で、読んだことないんですが、知ったかぶりしてみました)作品かなあ?


幾分伝奇的要素も含む本書、カテゴリ分けを迷うとこです。伝奇というには弱いし。そこで新しく<暗号>という新しいカテゴリを作りました。というのも、根っからの文系記述師は数学や物理に憧れがあり、暗号ってのはかなり好きな分野だからです。
岩波ジュニア新書の宇宙へ向けた二進法メッセージを、0と1をそれぞれ塗りつぶして解読しようとした小学生時代の記述師を思い出します。いや、本気だったんですよ・・・。サイモン・シンの『フェルマーの最終定理 (新潮文庫)』や暗号解読 上巻 (1) (新潮文庫 シ 37-2)』もぜひ買いたいなぁ。


次の暗号ものは『クリプトノミコン』だっ!