読了本ストッカー:司馬遼太郎の伝奇時代幻想短編集……『ペルシャの幻術師』

ペルシャの幻術師 (文春文庫)


司馬遼太郎


文春文庫


2007/11/7 読了。


司馬氏の作品は『新撰組血風録』『梟の城』に続いて3冊目。



ペルシャの幻術師」
・・・表題作。西暦1253年、蒙古軍によって占領されたペルシャの街メナム。ペルシャ攻略軍支隊長である大鷹汗(シンホルハガン)ボルトルの殺害を依頼された幻術師(シャヒル)アッサム。契約(カラールダード)と義務(ワジーファ)によって、さしたる理由もなく(依頼されてるんですけどね)殺害の準備を進めるところが怖いです。また、自らの肉体と力に絶対の自信をもつボルトルが、その健康な残忍さ(?)ゆえに、逆に追い詰められていく過程が、さらに恐ろしいです。ラストのスペクタクル的展開も素敵です。


「戈壁の匈奴
・・・なんと読むのかと思ったらゴビでした(勉強不足!)。本書の表記はオリエンタリズム(使い方、合ってますか?)あふれています。色目(アラビア)、回紇(ウイグル)、安息(ペルシア)、支那(ギタット)、吐蕃(トブト)、身毒(インド)などなど。
   それはさておきこの短編は、ゴビ砂漠西夏の遺物を発掘したサー・アルフレッド・エフィガム大尉が成吉思汗鉄木真(チンギスカンテムジン)の人生を夢想する(磯貝勝太郎氏の解説によると<詩的想像力>)物語。
関係ないけれど、西夏といえば映画『敦煌』。記述氏が最初に映画館で観た映画です(それもどうなのか・・・2作目はターミネーター2だしね)。井上靖氏の原作も読んでみないとね~。


兜率天の巡礼」
・・・ポツダム政令によって教職を追われた法学博士、閼伽道竜(あかどうりゅう)は、妻・波那が死に際し、狂態を示したことからその遺伝を疑い、妻の実家の系統を調べはじめます(今だったら発禁ですな)。
  本家に当たる兵庫県赤穂郡比奈の大避神社(きた・・・)の禰宜、波多春満は、自分たちの祖先は秦氏(きたきた・・・)であり、千数百年前にコンスタンチノープルを追われた景教徒のユダヤ人であると述べるのでした。きたきたきた・・・!大闢と書いてダビデと読ませるとか、三角鳥居とか、伝奇ワードが盛りだくさんです!
  『陰陽師』だとか京極夏彦氏の<妖怪>シリーズだとか、この辺りのことをネタとする物語もたくさんありますが、本編の優れたところは、道竜が<奇妙な遊魂の巡歴をはじめる>幻想的な点。道竜は5世紀に東ローマ帝国の都コンスタンチノープルを追われた教父ネストリウスとなり、7世紀に古代中国に流れつき、以後繁栄したネストリウス派キリスト教景教)の集団の長老、アウギンゾムとなり、日本に至り秦氏の遠祖となり、そして・・・満腹(笑)。
  解説によると司馬氏を最初に評価した海音寺潮五郎もまた、同じ学説に触発されて『蒙古来たる』を書いたとのこと。しかも景教徒の姫が身を隠すのは傀儡の一団!そう考えると、傀儡をはじめとする民を描いた隆慶一郎氏、その著者『吉原御免状』でも解説を書いていた磯貝勝太郎氏、その解説で司馬氏の伝奇諸作を知った記述師、と全てがつながりますな、一本の線で~!(つながらない)


「下請忍者」
・・・第42回直木賞受賞作『梟の城』を彷彿とさせる下忍の悲哀を描いた作品です。



ゆらい、忍びの業というのは、詐略と非情のうえに成りたっている。このような世渡りをするこの職業集団に、まっとうな人間感情を求めること自体、無理なのであった。だから、腹も立ちはしなかった。立場がかわれば、自分自身もそうしたろうと思うくらいなのである。


というように、人外の化生としての忍者の内面を描きます。切ないのう。


「外法仏」
・・・天台宗僧都恵亮は、太政大臣藤原良房の娘が産んだ皇子、惟仁親王を皇太子にするべく、祈祷を行うことになります。その周辺に出没する歩き巫女青女の正体とは?・・・いやぁ、ラストが壮絶!


「牛黄加持」
・・・う~ん、摩刮せよ!(笑・・・えない)


「飛び加藤」
・・・わりと上杉謙信がやられキャラです。記述師の飛び加藤初体験は、学研(たぶん)まんが『猿飛佐助』。有名な忍者というようなコラムにでていました。このまんが、敵が竜のロボット(時代劇なのに)に乗っているという(そして他の人たちはそれが本当の竜だと思っているという)無茶な設定だったなぁ。


「果心居士の幻術」
・・・出ました、果心居士! 記述師の果心居士初体験は、学研まんがひみつシリーズの『超能力のひみつ』。ユリ・ゲラーとか、御船千鶴子だとかと同列の扱いでした(笑)。そういえばサイババも載っていたよ! サイババ・・・息が長いな(二十年近く前だし)。本当にマニアックな本だったなあ。


というわけで、伝奇小説と幻想小説の入り混じった、面白い短篇集でした。収録作はだぶりがあるみたいですが、『果心居士の幻術』も読みたいです。あと伝奇ものとしては『風の武士 上 新装版 (1) (講談社文庫 し 1-51)』や『大盗禅師 (文春文庫)』もぜひ。あ、あと海音寺潮五郎の『蒙古来たる〈上〉』もね。