読了本ストッカー:「ぼくは警察官でもなんでもない。犯人を捕らえるのには何の興味もありません」……『人喰いの時代』

人喰いの時代


山田正紀  徳間文庫


2007/10/7読了。


よく見たら、この表紙はハルキ文庫ですね。ま、いいか。こっちの方が素敵な表紙だし。


タイトルからてっきり密室ミステリのオンパレードかと思ってたら、そういうわけでもないんですね。そう考えると、時代背景と重ね合わせても意味深なタイトルです。
満州事変勃発後の北海道を舞台にした、何やらワケありらしい椹(さわら)秀助と、これまた奇人の呪師霊太郎による探偵記録連作短編集です。



「人喰い船」
・・・別に船から人がいなくなっちゃう話なわけではなく、<人喰い船>とは、被害者の物産会社社長が所有する船が蟹工船ばりにひどい待遇であることからついた名前だとか。東京から小樽、カラフトへと向かう客船<紅緑丸>の船上で起きた殺人事件。
探偵役である霊太郎の言葉が、本書のすべてを語ります。



「ええ、ぼくは探偵小説が好きです。(中略) ですが現実の事件はそれよりももっと好きです。現実の事件にも、犯人がトリックを仕掛ける探偵小説さながらの事件がないとはいいきれないでしょう。しかし人間の仕掛けるトリックは、しょせん手品のようなもので、種あかしをされればたわいのないものにちがいありません・・・ぼくがほんとうに興味のあるのは人間心理のふしぎさ、その奇怪さなんです。人間というのは奇妙な生きものですよ。こいつはまったく、なにをしでかすかわかったものじゃない。そしてなにかの事件が起こったとき、その人間心理のふしぎさ、奇怪さがまるで火山が爆発でもするかのように、もっともよく発揮されるのです。ぼくにはなんともそれがたまらない」


ゆ、歪んでるというかなんというか、意味深だなぁ。


「人喰いバス」
・・・<人喰い船>事件ののち、北海道のO-市に腰を落ち着けた秀助。今回はタイトル通り、バスの中から一人の泥酔客を残してすべての乗客が忽然と消えた事件(いなくなったのはたった五人なんですけど、大袈裟に書いてみました)の顛末が語られます。


「人喰い谷」
・・・突然70歳を過ぎた秀助の独白から始まります。探偵小説雑誌の廃刊を採り上げて



しかし事実として、歴史は個人の愛憎が引き起こす犯罪など無視し、その歯車を容赦なく回転させていたのだ。人々の夢や、愛、嘆きさえも無慈悲に押しつぶして。
これはあとになって感じたことだが、秀助には冬至の探偵小説文壇の状況が非常に暗示的なものに思われる。(中略)要するにこの時代、探偵小説雑誌は「新青年」を除き、ことごとく廃刊になってしまったのだ。
まさしく時局は探偵小説を必要としていなかった。探偵小説も、そしておそらく探偵の存在をも。


またまた意味深だなあ。


「人喰い倉」
・・・きたきた、ようやく密室です。と思いきや・・・。読んでのお楽しみ。


「人喰い雪まつり
・・・55歳の紀子は、幼い頃死んだ父親のことを殺されたと信じています。そしてそのとき、家に下宿していた二人の若者のことも覚えています。


「人喰い博覧会」・・・こ、これはノーコメント。


いやぁ、深い。深いよ~これは。いろいろ書きたいけど・・・これは無心で読んだほうがお徳ですので、この辺で(逃げた)。