読了本ストッカー:清々しい、青年剣士の成長譚。……『蝉しぐれ』

蝉しぐれ


藤沢周平  文春文庫


2007/8/6読了。


映画化もドラマ化もされている(らしい)藤沢周平の代表作。ブックオフでもわりとよく見かけますね。


舞台はご存知、海坂藩。牧文四郎は二十八石の小身、牧家の養子。友人にも恵まれ、15歳にして空鈍流の剣士としての頭角も現し、隣家の幼なじみ、おふくに淡い恋心を抱き・・・と平穏な日常を送っています。しかしある日、父の牧助右衛門が突然藩に対する反逆の罪で切腹させられ、母親と二人厳しい生活を送ることに。父親への接見を許された文四郎が後悔する場面が、心に残ります。



「いつもと変わりなかった」
と文四郎は言った。
「二人だけで会えたんだな」
「そうだ」
「何か話したか」
「いや」
と文四郎は言った。小さく首を振った。
「何が起きたのか、聞きたいと言ったのだが・・・」
言いたいのはそんなことではなかったと思ったとき、文四郎の胸に、不意に父に言いたかった言葉が溢れてきた。
ここまで育ててくれてありがとうと言うべきだったのだ。母よりも父が好きだったと、いえばよかったのだ。あなたを尊敬していた、とどうして率直に言えなかったのだろう。そして父に言われるまでもなく、母のことは心配いらないと自分から言うべきだったのだ。父はおれを、十六歳にしては未熟だと思わなかっただろうか。
「泣きたいのか」
と逸平が言った。(中略)
「泣きたかったら存分に泣け。おれはかまわんぞ」
「もっとほかに言うことがあったんだ」
文四郎は涙が頬を伝い流れるのを感じたが、声はふるえていないと思った。
「だが、おやじに会っている間は思いつかなかったな」
「そういうものだ。人間は後悔するように出来ておる」
「おやじを尊敬していると言えばよかったんだ」
「そうか」
と逸平が言った。


うぅ・・・涙でそうになってきた。
その後、文四郎は藩の揉め事に巻き込まれていくのですが、剣戟場面もリズムが良くとても楽しめました。映画のDVD借りてみようかな?


お盆に実家に帰省した際、本棚に『海坂藩大全』があるのを発見!え~買ったの?うちの母親が藤沢周平にはまっているらしく(NHKの時代劇からみたいですね)本書もありました。