読了本ストッカー:「非常に立派なビジネスマンの資質をそなえてるわ」「今の侮辱は聞かなかったことにしますよ」……『シブミ㊦』

シブミ〈下〉


トレヴェニアン  ハヤカワ文庫


2007/6/9読了。


巻頭からなぜかケイヴィンク(洞窟探検)の話・・・。ニコライは優秀なケイヴァーとして、世界に名を馳せているのです。「黒い9月」は、そしてテロリストはどこへ行ったのやら・・・。
ニコライの親友、バスクの詩人にして英雄、ル・カゴのキャラがイカしてます。



ル・カゴが鼻を鳴らして、そんなことは問題ない、あの山越えに密輸品を運ぶのはスルータン・バスク人の伝統的な職業なのだ、とヘルにいった。
「わしたちがかつてスペインからピアノを一台運んできたのを、知ってるか?」
「なにかそのような話を聞いたな。どうやって運んだのだ?」
「そらな!平地の住民は知りたがるだろう!実際には、かなり簡単だったのだ。バスク人の創意の前に崩れ落ちた不可能事の一つにすぎない」


ヘルがゲートルとブーツを脱いだ。「何時だ?」
ル・カゴはブリキのカップに注いだ茶を運んでくるところであった。「判らないよ」
「なぜ?」
「わしが手首をかえしたら、おまえの茶がこぼれてしまうじゃないか、ばか者!さっ。カップを受け取れ!」


もちろん、ただの愉快なおじさんではなく、彼が「ル・カゴ」と名乗るに至った理由があるのですが。バスク語が現存する印欧言語とまったくつながりのない、前印欧言語であることなど(ほんとですよね?)コネタも盛りだくさん。


そして、ようやく下巻も後半になって、物語は本筋へ。乗り込んできたダイアモンド少佐をディナーに招いたニコライの仕打ちも見物です。



ダイアモンドはワイン通を自負していた。(中略) 「ああ、世にはタヴェルあり、まさにタヴェルあり」
ヘルがかすかに眉をひそめた。「えー・・・・・・それはたしかですな」
「しかし、これはタヴェルでしょう、ちがいますか?」
ヘルが肩をすぼめてさりげなく話題を変えると、ダイアモンドは恥ずかしさで首筋が鳥肌立った。タヴェルだと確信していたのだ。
      ~(中略)~
「わたしはききたいことが一つあった」
「なんだ?」
「夕食に出たあのロゼ、あれはなんだ?」
「もちろん、タヴェルだ」
「やはりわたしには判っていたのだ!」
「いや、判っていなかった。判りそうになっただけだ」


かっこよすぎる(笑)。絶妙な警句や皮肉の連続でニヤニヤしてしまいます。果たしてニコライはシブミの生活に戻れるのか?


本書はブックオフで入手したため、上巻は増刷版なのですが、下巻は旧版でした。その表紙がこれ・・・ひどい、ひどすぎる・・・。このおっさん、ニコライ? これ売れたの? 増刷して正解でしょう・・・。
shibumi