2007/4/16読了。
先日読了した角川文庫版『魔界転生』の巻末目録に、本書が載っていました。「そういえば塚原卜伝って読んだことないな・・・」と思っていたら偶然本書を見つけたので購入。
剣聖・上泉伊勢守は風太郎忍法帖でも最強キャラとして設定されていますが(FSSのログナーみたいなものですな)、本書の卜伝はそれに勝るとも劣らない剣聖キャラ。短編なのが残念です。
「卜伝最後の旅」
・・・表題作。塚原卜伝71歳。こういう“枯れた”最強爺様書かせたら、池波正太郎氏に叶うものはそういませんな。『剣の天地』の上泉伊勢守しかり、『剣客商売』の秋山小兵衛しかり。普通の剣豪小説なら・・・
「ふはははは!○○右衛門(←適当)、老いたり!」
「むう、いかん。わしとしたことが・・・目がかすんできおったわい(←適当)」
とかなるとこですが。
「南部鬼屋敷」
・・・剣の腕をもって南部藩に召し抱えられた塩川八右衛門。藩主の寵愛を受け、目付に抜擢(自薦ですが)されるのですが、問題は藩主が暴君であること。抜擢にしても善意ではなく、単に譜代の家臣に対する嫌がらせだったりするのです。しかし八右衛門は苛烈に藩政を取り締まり、大いに実績を上げます。そして・・・。塩川八右衛門は実在の人物のようで「盛岡タイムスWeb News」に詳細が載っています。随分話は違うみたいですが。
「権臣二千石」
・・・すごい書き出しです。
今朝もまた快便である。朝の目覚めを待兼ねたような、小栗将監の健康な排泄に狂いはない。将監は満足した。
藩の執政として、頭の固い老重臣たちが重いもつかないやり方で藩財政を立て直した小栗将監。貯めに貯めた財産を運用しつつ、いつ身を引いて(不正が発覚する前に)商人となり我が身の安泰を図るか考えている最中です。糞ではじまり糞で終わる短編です。
「深川猿子橋」
・・・陰陽師・平井仙竜の物語。陰陽師も書いていたか、池波正太郎。主張がストレートに出すぎていて、ちょっと苦手かな?
「北海の男」
・・・間宮海峡の発見者・間宮林蔵を幕府の隠密として描く短編。といってもバリバリの現役としてではなく、老年を迎え、北海道や樺太に懐旧の情を抱く人間としてです。ただし心は現役。最後まで人をおちょくる姿勢は見事です(笑)。
「剣客山田又蔵従軍」
・・・彰義隊の生き残りでありながら、桐野利秋(中村半次郎)や西郷隆盛に惚れ込んで西南戦争に薩摩軍として従軍した剣客、山田又蔵の半生を描きます。明治初期と言えば江戸時代と同じく遠い昔と思っていましたが、こういう人物の子孫が八王子で○○○○○をやっていると聞けば、やはり現代とつながっている(当たり前)んだなあと感じます。池波氏の作品によくある、筆者の語りが突然挟み込まれるので、シニカルなメタノベル(っぽく)なっているところも、ニヤリとさせます。