読了本ストッカー:柳生は超ワルモノ……『柳生刺客状』

柳生刺客状


2006/12/5読了。


吉原御免状』の隆慶一郎氏の短編集です。伝奇趣味的作品の多い(?)隆氏ですが、本書は通常の時代小説もあります。


 「柳生刺客状」・・・表題作。『影武者徳川家康』『吉原御免状』にも語られた家康影武者説を念頭に置いた中編です。のちの尾張柳生兵庫助利厳である兵介とその父・新次郎厳勝の見た“地獄”の描写が怖い。それにしても、隆氏の諸作では柳生と秀忠は超ワルモノ・・・可哀想なくらいです。
「張りの吉原」・・・『吉原御免状』『かくれさと苦界行』でも度々触れられてきた“江戸吉原の張り”というものがどういったものなのか、元大阪新町の太夫・花扇(かせん)の目から描く短編です。しかし前作とは違い、男の“張り”です。吉原と言えば庄司家。末裔である庄司又左衛門も出てきます。
「狼の眼」・・・ちょっとした喧嘩から人を斬り、将来を捨て旅にでた剣客・秋山要助。闇の中で光る獣の眼になってしまった要助が悲しいです。しかしハッピーエンドっぽいところで救われました。
「銚子湊慕情」・・・書かれなかった書き下ろし長編の冒頭部分のみの作品。「死出の雪」・・・有名な“崇禅寺馬場の敵討ち”を描いた作品。行き違いが重なって皆死んでしまう・・・悲しい作品です。主人公の生田伝八郎が、思い上がった若造・宗左衛門にキレる場面、


「世の中のことは、何でも思い通りになると思っているようだな、宗左衛門。だがそうはいかぬ。貴様の腕などたかの知れたものだということを思い知らせてやる。(中略)わしのタイ捨流がどれほどのものか、じっくり見届けて地獄へゆけ」


喝采です。 新刊見本を持っていく神保町の取次の近くの古本屋に、隆氏の『花と水の帝』と『影武者徳川家康』がいつもあって気になっているのですが・・・。