読了本ストッカー:理系SFの極北、ここに登場!……『しあわせの理由』

しあわせの理由


2006/10/18読了。


「理系SFの極北」とも言われるイーガンですが、多分に文学的要素を感じる作品集です。


「適切な愛」・・・事故で植物状態になった夫の脳を、金銭的な理由から(!)ある格安の方法で保存しなければならなくなった女性の、意識の変容を描いた作品。なんとなく、妻を天使に殺された夫が神を信じるまでを描くチャンの「地獄とは神の不在なり」を思い出しました。
「闇の中へ」・・・地球上にランダムに出現するようになったワームホールに突入するランナーを描く作品。考え抜かれた物理現象にそこまで設定しますかと驚嘆させられました。
「愛撫」・・・美学的要素を含んだ物語でSFガジェットはあまりでません。日本でこんな物語を書いたらもっとマッドサイエンティストになっちゃうところ、静かな狂気とでもいうべきさりげないラストが印象的です。
「道徳的ウイルス学者」・・・まさにブラックユーモア。ちょっと笑えません・・・。
「移相夢」
チェルノブイリの聖母」・・・失われたイコンを追う私立探偵の話。出だしが『宇宙消失』のようで、まさかここから驚天動地の結末へ?と思わせてさらに予想外の結末でした。SF色は弱いですが、「協調分散型の超小型追跡用センサー群」(解説者談)など随所にガジェットが盛り込まれています。
「ボーダー・ガード」・・・“量子サッカー”をする人間(?)たちを描く作品。“量子サッカー”については、イーガンの公式HPのここを参照。
「血をわけた姉妹」・・・同一の遺伝子を持つ一卵性双生児の姉妹が、同じ遺伝病にかかったのに、何故か一方しか治らなかったという奇妙な謎を追う作品。
「しあわせの理由」・・・1990年代のベストSFと名高い表題作。“自分の運命を悔やむことが、物理的に不可能だったのだ”…コピーに使えますな。脳内物質の作用によりすべてしあわせに感じたり、逆にしあわせを感じられなくなったり…。ラストで主人公の恋人が選ぶ行動がリアルすぎ。 文句無しの五つ星です!